(上)AIIB台頭 質重視のインフラ投資岐路
アジア開銀50周年■越に低金利融資提案
ベトナム最大の商工業都市、ホーチミン市。中心部から北東のゾーゼイ市まで約55キロの区間を片側4車線の真新しい道路が続く。熱帯雨林を貫くこの高速道路は、2015年2月8日に全線開通した。
「それまで2時間かかっていたのが、1時間になったよ。走り心地も良くて快適だ」
日系工業団地が集まる東南部ブンタウ市からホーチミン市へ荷物を運ぶトラック運転手、マイ・バン・ドゥン(39)は笑顔を見せる。
この高速道路整備には、9億8100万ドル(約1090億円)が投じられた。うち、約3割をアジア開発銀行(ADB)、約6割を国際協力機構(JICA)が支援した。ともに、日本が主体で運営する国際的な支援機関だ。
ゾーゼイ-ホーチミン間の月間交通量は135万台と、この2年間でほぼ倍増した。日本が誇る“質の高いインフラ投資”が、ベトナムに物流改革をもたらした形だ。
日本の技術で改革
「SHIMIZU(清水建設)」「MAEDA(前田建設工業)」「SUMITOMO(三井住友建設)」-。ホーチミン市の建設現場には、日系ゼネコン各社の看板があふれる。急速な経済発展に伴い、ベトナムでは渋滞などの社会問題が顕在化した。解決の切り札が、日本企業の高いインフラ整備技術だ。
ゾーゼイ-ホーチミン間の高速道路にも、日立製作所と伊藤忠商事、東芝の日系3社連合による最新の高度道路交通システム(ITS)が組み込まれた。2キロおきにセンサーを配置し、渋滞や事故の情報だけでなく、路面を傷めるトラックの過積載まで検知できる。「通信精度99.99%」と日本並みの自動料金収受システム(ETC)も、17年内に導入予定だ。
日本のインフラ輸出拡大とともに、ADBの開発融資も急増している。アジア地域におけるADBの融資承認額は、16年に175億ドルとなり、過去最高を更新した。
ベトナム運輸省副大臣のグエン・ゴック・ドンは「インフラの完成後に、運用・整備するサービスまで配慮できるのがADBの強みだ」と持ち上げた。
初代総裁が表敬訪問
こうした日本勢に対抗する動きが、ひそかに進む。
今年3月6日。中国主導の国際開発金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の初代総裁、金立群がホーチミン市の人民委員長らを表敬訪問した。金は通常の金融機関による融資に比べ、低金利での開発融資を提案したとみられる。金は既にベトナム政府高官とも数回の会談を重ねている。17年内にも、ベトナムから第1号の融資案件を取り付けようと水面下で交渉を進めているという。
15年12月に発足したAIIBは、審査基準の緩和による迅速な融資を打ち出した。質を重視し、厳しい審査基準を設けるADBは、融資決定までに時間がかかり、使いにくいとの指摘もある。資金需要が高い発展途上国の“本音”につけ込み、各国への資金提供で影響力を高めようとするAIIBの意図は明白だ。
人民元の国際化を目指す中国の野望がアジアに浸透しようとしている。運輸副大臣のドンの言葉は、その兆しをうかがわせる。
「AIIBは融資審査にかかる手続きを見直すきっかけを与えてくれた」
ADBは創立50周年を迎え、節目となる第50回の年次総会を4日から横浜市で開く。中国が主導するAIIBが台頭する中、途上国への開発融資はどう変わるのか。今後を展望し、課題を探る。=敬称略
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