「分解スキル・反復演習」が企業研修変える

高論卓説

 ■押し付けは効果薄、固定観念払拭せよ

 企業内研修が危機的な状況に陥っている。「講義を聴いてもビジネスに役立たない」「理論はわかったが行動で再現できない」といった声が収まらない。「もう自社の人事部に期待しても無駄だ」と、人事や教育部門、ひいてはトレーニング会社への諦観さえある。

 それに輪をかけるのが「ネガティブ・プレッシャー・トレーニング」だ。負圧の肉体運動ではなく、「これをやってはいけない」「こうしなければならない」というネガティブワードや押し付けフレーズ満載の企業内研修のことだ。

 研修担当者は良かれと思い、時間をかけて参加者を選び、受付で出席チェックをし、名札や一律の飲み物が置かれている指定席へ参加者を誘導する。研修の冒頭「PC(パソコン)は閉じてください」「携帯はオフにしてください」「内職はしないでください」と禁止事項を長々と説明する。

 指名されて発言させられ、ふと後ろを見ると、オブザーバーが座っていて、なにやらチェックをしている。「きっちりと準備をしたり対応したりして研修を実施しないと、意欲の低い研修参加者に対して研修効果を上げられない」と人事・教育担当者は言う。

 「これのどこが悪いのか」と思う読者も多くいるに違いない。しかし、これら全てがネガティブ・プレッシャーだ。研修に出させられる、出席をチェックされる、決められた席へ座らされる、禁止事項が説明される、後ろから監督される。ああしろ、こうしろ、あれはやるな、それはやるなという「やらされ感」満載の研修が、参加者の能力開発意欲を著しく低下させ、研修効果を阻害する。

 そこで、真逆のことを実施した。希望する時間に希望するプログラムに参加する。出席チェックはなく(演習シート提出で出席者はわかる)、席は自由。さまざまな飲み物から好きなものをとっていただき、禁止事項は一切言わない(演習で忙しく禁止事項をする暇はない)、一切指名せず自由に発言する。オブザーバーは一人もいない。これだけのことで参加者の能力開発意欲は飛躍的に高まったことが実証された。

 こうした仕掛けをした上で、「理論はあえて解説せず演習により行動で再現できるようにする」「講義は行わずビジネスケースの演習を繰り返す」というプログラムを実施し始めたところ、冒頭に紹介した諦観が払拭された。

 それが、「分解スキル・反復演習型能力開発プログラム」だ。身に付けたいビジネススキルをパーツ分解し、コア(核)スキルを反復演習する。トヨタグループ・関連会社の役員・管理職研修やサントリーグループのサンリーブの営業研修など、年間100社3000人が参加するようになった。

 このプログラムでは、技法の解説はせず、ひたすら演習する。例えばファシリテーション(会議進行)研修では、コアスキルである4つの質問の繰り出し方だけを反復演習して、1時間の会議で合意形成できるようにする。コーチング研修でも解説はせず、5つのコーチング質問の話法ロールプレーイングで疑似体験を繰り返し、コーチング話法を実際に繰り出せるようにする。

 ネガティブ・プレッシャー・トレーニングをやめて、分解スキル・反復演習でコアスキルを着実に体得すればビジネスに役立つ、行動で再現できる能力開発が実現できる。それを阻んでいるのは、人事・研修担当者の過去の研修様式にこだわる固定観念だと思うのは私だけだろうか。

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【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし グローバルトレーニングトレーナー。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、SAP、PwC、KPMGなどを経て、リブ・コンサルティングで組織開発事業部長を務める。横浜国立大学非常勤講師。著書に「チームを動かすファシリテーションのドリル」(扶桑社)。55歳。長野県出身。