機材調達に「入線確認」の壁

被災地へ 石油列車
津波に流されたJX仙台製油所の「タキ1000」(日本石油輸送提供)

 ■走行可能なタンク貨車集めに奔走

 根岸(横浜市)から上越線、日本海縦貫線を通り青森経由で盛岡まで-。被災地への輸送ルートが確定したことで、石油列車を構成する機関車やタンク貨車など、機材の選定が本格化していく。同ルートには、通常は石油を運ばない区間もある。走行実績のない機関車や貨車を使う場合は、線路や橋脚が運行に耐えられるか、事前にシミュレーションする「入線確認」が必要となる。入線確認はJR東日本などの旅客鉄道会社が行うが、通常は2、3カ月を要する。一刻も早く石油列車を走らせたいJR貨物としては、可能な限り入線確認せずに運行できる機材を選ぶ必要があった。

 ◆機関車リレーが最適

 根岸から盛岡貨物ターミナル駅までは電化区間が続くため、モーターで走行する電気機関車が使える。ただ、「金太郎」の愛称で知られるEH500型など、新しい電気機関車は入線確認が必要だった。

 「国鉄時代の機関車を中心に集めてくれ」。機材調達を担当したJR貨物の車両検修部機関車グループリーダーの松田佳久さんは部下に指示を出した。1987年に分割民営化される前の国鉄時代、機材は基本的に日本全国どこでも走れる仕様のものが選ばれていたからだ。

 「EF81が集められます」

 機材調達を担当する部下から弾むような声で報告が届いた。EF81型は交直流両用タイプの電気機関車で、入線確認も不要だ。震災当時、九州新幹線の開業日を控えていたこともあり、大幅なダイヤ改正が行われた。その関係で余剰となったEF81数台を集めることができた。

 不安があった。大宮からの上越線部分は登りがきつい直流電化区間だ。EF81のような交直流両用だと馬力が乏しく、石油を満載した重い貨車を引っ張り上げることができるのか。

 最終的に、松田さんはEH200型、EF64型という山岳区間に強い直流電気機関車の投入を決めた。途中駅で機関車を切り替えるのは手間がかかるが、被災地に確実に届けるには機関車のリレーが最適と判断した。

 次にタンク貨車の確保。石油輸送で最も使用されているのが「タキ1000」と呼ばれるタイプで、1基でタンクローリー2、3台分相当の45トンを積める。所在を調べるとJXの仙台製油所に46両あったが、津波を受け無残に横転していた。

 「コスモ石油の千葉製油所、77両全部無事だそうです」

 落胆したところにうれしい報告が舞い込む。同製油所は、LPGタンクが爆発炎上し、いまだ消火作業の最中。タンク貨車があった場所は、爆発したプラント群から200メートルの距離だったが奇跡的に被害を免れた。

 ◆想定外の問題で暗雲

 計画が順調に進むかと思われたそのとき、想定外の問題が生じた。「輸送ルートの一部で、タキ1000の走行実績がありません。入線確認が必要です」。部下からの報告を受けて、松田さんは天を仰いだ。

 「入線確認を取ろう。JR東に提出するタキ1000の資料を整備してくれ。それと…」。続けて松田さんは部下に「タキ38000を集めてくれ」と指示した。

 「あの黒いやつですか?」。部下は指示がよくのみ込めない様子だった。タキ38000は国鉄時代に導入されたタンク貨車で、積載量も36トンと少なく、ほとんどが退役済み。古い貨車だけに入線確認なしで投入できるが、走行可能な状態でいったい何両残っているのか。もし集まらなかったら、被災地向けの石油列車はどうなるのか。計画には暗雲が垂れ込めていた。