武田薬品工業 「選択と集中」徹底、創薬研究受託乗り出す 7月に事業スタート

 
武田薬品工業の分社化される研究部門がある湘南研究所。将来的には社外の基礎研究も受託したい考えという

 武田薬品工業が、バイオベンチャー企業などから創薬の基礎研究を請け負う事業に乗り出すことが3日、分かった。薬の評価や新薬につながる成分の候補を探す研究を手助けする。武田は、設備投資や開発費を抑えたい企業からの受託を見込んでおり、新たな収益源にする狙い。

 創薬研究の部門の一部を同社本体から切り離す形で、4月に準備会社を設立しており、7月1日から事業を開始する。ここに湘南研究所(神奈川県藤沢市)に勤務する研究員ら千人の4分の1にあたる250人を転籍させる。新会社では、製薬に不可欠な薬の安全性の確認や、疾病に対する有効成分の特定などの基礎研究を専門的に行う。

 同社によると、創薬の研究部門の分社化は国内の製薬大手では初めての試み。武田の創薬に関わる基礎研究を引き続き担うほか、大学やバイオベンチャー企業、同業他社からの依頼も引き受ける計画だ。

 武田の担当者は、「外部機関やベンチャー企業などの研究を、創薬に結びつけるための橋渡しにもなると考えている。より柔軟でスピード感のある研究開発モデルを構築したい」としている。

 武田が創薬研究部門で分社化に踏み切ったのは、より成長性の高い事業に経営資源を傾ける「選択と集中」を徹底するためだ。武田は、がんと消化器系疾患、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患の3つの領域とワクチンの開発に資金をつぎ込む方針で、それ以外の事業は、足元の収益をいかに高めるかが課題になっている。

 クリストフ・ウェバー社長は昨年7月、「革新的なグローバル製薬企業を目指す」とし、社内組織の抜本的な見直しに着手。総額750億円を投じ、世界規模で組織を再編する方針だ。

 M&A(企業の合併・買収)も加速している。同社の重点領域に位置付けるがんの治療薬に強みを持つ米製薬会社を約54億ドル(6100億円)で買収。製品化までに1千億円規模の巨費と十数年の研究期間を要するような新薬には、開発コストを踏まえ、創薬の先進企業や事業の買収を有力な選択肢にしている。

 今回、武田が、製薬会社の肝である研究部門の体制を見直すことは、聖域なく事業再編に取り組む同社の強い意志を浮き彫りにしている。(安田奈緒美)