「なにわ筋線」で交錯する野望と悲願 阪急、JR西ら鉄道4社が乗客“争奪戦”

 

 大阪都心を南北に走る鉄道新線「なにわ筋線」の構想がまとまった。開業すれば大阪の中心・梅田地区と関西国際空港間の所要時間が現状の1時間前後から30分台に短縮される。都市部の交通はより便利になり、外国人観光客にとっての関空の魅力も増す。関係する鉄道各社にとっては事業拡大のチャンスだが、新線を介して乗客の奪い合いが一層激しさを増すのも確実だ。(織田淳嗣)

 それぞれの思惑

 なにわ筋線は、大阪駅北側に隣接する北梅田から南下し中之島、西本町を経て、枝分かれして西側はJR難波へ、東側は南海新難波、さらに新今宮に至る。その結果、JR西日本の関空特急「はるか」や南海電気鉄道の特急「ラピート」は、直に梅田地区に行けることになる。

 新線の計画に参画する阪急電鉄の幹部の1人は、「うち、JR西、南海さんにとって、三方良しだったということ」だと話す。

 阪急は京都線、宝塚線、神戸線を束ねる十三駅から北梅田への連絡線を敷設する計画。完成すれば、関空に降り立った外国人観光客を沿線の京都や神戸に誘導しやすくなる。

 一方、JR西は現在、関空から大阪に向かう途中、大阪市内では環状線を使って大回りしているが、なにわ筋線により所要時間を短縮できる。また、北梅田から北に伸びるJR東海道支線で新大阪とつながる。

 南海も、なにわ筋線計画に参画することで悲願だった「梅田進出」の切符を獲得。競合を警戒するJR西が計画に難色を示した時期もあったほど、南海のメリットは大きいとみられている。

 行き止まりの扉

 「できるだけ早く作っていただき、また新たな需要を生み出したい」。京阪電気鉄道の加藤好文社長も、なにわ筋線への期待を語る。同社中之島線が中之島駅で接続することになるからだ。

 中之島-天満橋を結ぶ京阪中之島線は平成20年10月に開業。「平日に1日8万人」の乗客数を目指したが、28年度は1日2万8千人程度にとどまる。中之島フェスティバルタワーやダイビル本館、新ダイビルなど、近隣の大型開発に伴って増加傾向にはあるものの、終着の中之島駅が他の鉄道と連絡せず孤立していることが弱点だ。

 こうした状況を象徴するのが、中之島駅の地下1階改札口を出て左手の長い廊下を進んだ先、行き止まりにある扉。「この先にも通路が続いているんです。なにわ筋線の建設を見越したものなんですよ」と広報担当者は説明する。

 今は鍵がかかっているが、なにわ筋線が開通した暁には開放され利用客が行き交うようになるはずだ。ただ「理論的な需要予測だと、(京阪の)乗客が(他社に奪われて)減るというのもある」(加藤社長)だけに、期待と不安が相半ばする。

 競争激化

 大阪観光局によると、28年度に大阪府を訪れた外国人観光客数は約941万人で4年連続で過去最高を更新。特に関空と大阪の中心部を行き来する人が増加している。

 なにわ筋線の建設費は概算で約3300億円と当初想定よりも膨らんだが、大阪府、大阪市とJR西、南海電鉄、そして新規に計画に参入した阪急電鉄の5者は採算が合うと判断した。今後、当事者間で費用負担についての協議が進められる。

 阪急電鉄はなにわ筋線が開業する43年春をにらみ、十三と新大阪を結ぶ「新大阪連絡線」も検討。すでに阪急は十三-新大阪の鉄道免許を取得している。実現すれば、弱点であった「新幹線との乗り継ぎの悪さ」も解消される。

 鉄道各社にとって、なにわ筋線はそれぞれが抱える悩みを解決する新線となりうる。どこが最も恩恵を受けるのか。乗客争奪の競争はこれまで以上に激しくなりそうだ。