中韓との競争激化するインフラ輸出 それでも“勝ち抜く”日本企業の気配り
政府が成長戦略の一環で官民挙げて進める「質の高いインフラ輸出」。世界で拡大する巨額のインフラ需要に日本らしい質の高さで応えるのが安倍晋三首相の描くシナリオだ。品質が高い分初期投資はかさむが、長持ちするため長期的にみると輸入国にとって安上がりで済む。中国や韓国などの新興勢力の台頭でインフラ整備の争奪戦が激化に向かう中、日本企業はどういう質で差別化を図っているのか。清水建設がベトナムで進める地下鉄工事の現場を歩くと、技術と人の両面で“日本流”の気配りが浮かび上がってきた。
ベトナムの商都ホーチミン市の中心部を5月下旬に訪れると、100年以上前に建設された市民劇場「オペラハウス」の前で地下鉄のオペラハウス駅をつくる工事が進められていた。
同市で深刻化する交通渋滞を解消する切り札の1つが、市中心部のベンタンと北東部のスオイティエンを結ぶ総延長19.7キロの「都市鉄道1号線」だ。円借款で建設され、2020年の開通を目指している。
1号線のうち、オペラハウス-バーソン駅間を中心に1.7キロの区間を担うのが、清水建設と前田建設工業の共同企業体だ。約246億円で駅舎とトンネルの工事を請け負い、14年夏に着工した。
工事現場の囲いに入ると、鉄筋や残土などを出し入れするための開口部が目に飛び込んできた。ヘルメットと安全ベストを付けて入ると汗が噴き出した。
オペラハウスの目と鼻の先にはサイゴン川が流れ、付近の地盤は1メートル掘ったら水があふれ出るほど軟弱。回りにはフランス植民地時代から続くホーチミン人民委員会庁舎や老舗ホテルも立ち並び、どれも基礎工事が不十分という。
気を配る先の一つが、歴史的建造物だ。「建物への影響を最低限に抑えてほしい」というホーチミン市の要求に応えるため、オペラハウスの横を地下約30メートルまで掘り進め4階建ての駅をつくる方式を選んだ。駅の中には、上下線2本のトンネルが縦方向に垂直に並ぶ形で慎重に掘られる。
まさに難易度の高い工事だが、清水建設国際支店ホーチミン地下鉄建設所の河合信之所長は表情に自信がみなぎっていた。「さまざまな地層に適応し間隙を縫うように細く掘る技術は日本が一番。中国や韓国には負けない」と胸を張る。
5月29日には、シールド機(掘削機)が地盤を削り取りながらトンネルの壁を組み立て進む工事が本格化。掘削機はオペラハウスの周辺も通ることから、同社などは事前に掘削が地盤に与える影響を予測し、それを基に掘削の場所の土をセメントで固めた。掘削が地盤沈下を引き起こす原因とならないよう、取り出す土の量にも目を光らせる。
安全意識も徹底
気配りは現地の作業員にも向けられている。日本並みの高い安全意識を根付かせることが狙いだ。
ベトナムの高速道路公社から受注した長大橋梁(きょうりょう)の工事を進める清水建設国際支店ベトナムビンカイン橋建設所の中村智樹所長も「工期、安全、品質の3本柱を追求できる組織力が日本の強み。それらを支えるのはすべて人だ」と強調する。
今回の地下鉄工事には、共同企業体のスタッフ約140人のほか、約500人の作業員が携わる。掘削の未経験者ばかりだが、日本企業との仕事で経験を積んだ台湾や香港の技術者も加わって手取り足取り教えている。
作業員の1日のはじまりは、ベトナム語による午前7時半のラジオ体操だ。その後、安全管理のスタッフらから業務の手順の説明を受けた作業員は、さらに少人数のグループに分かれて内容を細かく確認する。
作業員が持ち場についた後も、管理スタッフが巡回する念の入れようだ。清水建設の東京本社などが品質管理や安全対策をサポートする態勢も整える。
さらに日本語教室など、日本に親近感を感じてもらうための企画にも余念がない。これらが奏功して無事故の期間は、4月末に約470万時間に達した。
ホーチミン市人民委員会のグエン・タン・フォン委員長は「事故ゼロで2020年に開通してほしい。市の社会と経済の発展に貢献できる」と期待感を示す。
記者が泊まったレックス・ホテルに隣接する工事現場の塀には「VIETNAM-JAPAN」と書かれた看板があり、両国の国旗が描かれていた。通り掛かった日本人観光客が誇らしげに記念撮影することも。
技術移転の実績だけでなく現地作業員との間に芽生えた絆も、世界のインフラ市場を開拓する上で大きな武器となるに違いない。(産経新聞社経済本部 臼井慎太郎)
関連記事