ダイソン、超高級ドライヤーで風穴 日本市場に変化、各社も高価格化

 
ダイソンのヘアードライヤー新製品のPRに起用された歌手で女優のシシド・カフカさん=5月9日、都内(同社提供)

 強い吸引力で人気を集めるサイクロン掃除機の英ダイソンが、今度は高級ドライヤーで日本市場に風穴を開けようとしている。破格の4万8600円の超高級品で昨年春にドライヤーに参入。平成28年の販売額で、市場シェア1割弱を獲得した。今後世帯数が減少に転じる日本だが、同社にとっては「新しい技術が受け入れられる市場」なのだという。(産経新聞社 石川有紀)

虫眼鏡型の秘密

 穴の開いた虫メガネのような形の「ダイソンスーパーソニックヘアードライヤー」。あの羽根のない扇風機と同じようにリング部分から風を吹き出す。「頭皮まで届く強い風量で、素早く髪を乾かす」という。

 持ち手部分に収まる直径27ミリの小型モーターが、毎分最大11万回の高速回転で持ち手の下部から取り込んだ空気を、傾斜のついたリング部分に誘導。リング後方や前方の空気を巻き込んで吹き出させる。

 「1960年代から、ドライヤーのデザインは変わっていません。ヘッド部分に大きなモーターが入っていて、重くて使いづらいでしょう?」とダイソン日本法人(東京)の広報担当者は、自社製品の斬新さをアピールする。

日本ファースト

 ダイソンは今年5月、「日本のユーザーのために日本のスタイリストと改良した」(開発責任者)新製品を発表。太い髪でもスタイリングしやすいよう最高温度を100度に引き上げ、風量は弱めるマイナーチェンジで、販売好調な日本市場をさらに伸ばしたい考えだ。

 サイクロン掃除機もドライヤーも、世界に先駆けて日本に投入したダイソン。日本市場を重視する理由は創業の経緯にあるという。

 創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏(70)は1983年、ゴミが目詰まりしにくいサイクロン方式の掃除機を発明。しかし、紙パックが不要なため従来品の関連市場の破壊につながると、母国の英国ではメーカーの協力を得られなかった。

 その後日本で商社を通じて、1986年に初めてのサイクロン掃除機を1台約20万円で発売。起業資金を得て93年にダイソンを設立した。今でも日本は、同社の売上高の2割を占める重要な市場だ。

高級化を牽引

 調査会社、GfKジャパンによると、2万~3万円台の高級ドライヤーは、パナソニックが根強い人気を誇る。28年のドライヤー販売額でもシェア約6割の圧倒的首位に立つ。

 だが、ダイソンの参入で市場に変化が起きた。国内のドライヤー販売台数は平成26年からほぼ横ばいだが、1台あたりの平均価格(税抜き)は26年の約4300円から27年には約5400円に、28年は6200円に跳ね上がった。

 水村純一シニアアナリストは「ダイソンがライバルを突き放す4万~5万円台の価格を打ち出したことが、市場全体の単価を引き上げた」と分析する。

 国内メーカーも高級機種に力を入れる。パナソニックは昨年9月にイオン発生量と風量アップして商品を刷新、シャープは昨年10月、人の手のようなブラシを先端に取り付け頭皮マッサージができるドライヤーを発売し「8割がタオルドライのみ」(同社調査)という男性にターゲットを拡大した。

 家電製品の販売台数の大きな伸びは見込めない日本市場だが、水村氏は「多機能で手頃な家電よりも、一芸に秀でた家電が高額でもヒットする傾向にある」とみる。ダイソン製品は、新しいモノに貪欲な日本人にぴったりフィットしているようだ。