半導体技術流出に強い危機感、日米韓連合と交渉
東芝半導体売却東芝が、産業革新機構を軸とする「日米韓連合」に東芝メモリ買収の優先交渉権を与えた背景には、半導体技術が国外に流出することへの強い危機感がある。経済産業省は、日本側が主導権を確保し、技術流出を防ぐため、自ら陣営作りに奔走。提示額はライバルを下回ったが、少しでも高値で売りたい東芝も、国内雇用を維持できることと合わせて「総合的な判断」(同社)に傾いた。(井田通人)
■経産相も評価
「技術流出の防止や雇用の確保、産業革新の観点から一定の条件を満たしている」。世耕弘成経済産業相は21日、東芝の決定をこう評価した。
東芝メモリが手掛ける記憶用半導体「フラッシュメモリー」は、データセンターやスマートフォンの情報保存に使われる。その技術は日本の半導体産業を支えるだけでなく、軍事転用の恐れがある。世耕経産相は「懸念があれば躊躇(ちゅうちょ)なく発動する」と、安全保障にかかわる技術流出を規制する外国為替及び外国貿易法(外為法)の適用にたびたび言及。首相官邸も売却の行方に深い関心を寄せ、日本側が主導権を守れるよう経産省を後押しした。
■陣営作り遅れ
しかし、半導体大手の米ブロードコムや台湾鴻海(ホンハイ)精密工業といったライバルに比べ陣営作りは遅れた。革新機構と日本政策投資銀行は、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と連合を組んだが、提示額は1・8兆円と3兆円近い鴻海、約2・2兆円のブロードコムに差をつけられた。並行して経団連が日本企業に出資を呼びかけたものの、応じる動きは広がらなかった。
事態が動いたのは今月中旬に米投資ファンドのベインキャピタル、韓国半導体大手のSKハイニックスと合流してからだ。KKRは抜けたが、何とか2兆円を確保できる算段がついた。東芝メモリと競合するSKには出資させず、融資にとどめることで、技術流出を防ぎ、独占禁止法審査の長期化も避けられると判断した。一方、中国と関係が深い鴻海は当初から避けられ、ブロードコムも買収後の中国への転売が懸念材料の一つになった。東芝の経営が窮地に陥ったのは、原子力事業で巨額損失を出したためだ。東芝関係者は「(罪のない)半導体のリストラは何としても避けたい」と語る。その点、日米韓連合はリストラの懸念が少ないことも評価された。年間約3千億円の設備投資も関係者は「用意できる」と太鼓判を押している。
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