(下)臭気対策剤、家畜の糞尿や生ごみの臭い改善
香りを創る■作業員の負担大きく軽減
シキボウと山本香料が2011年に共同開発した消臭加工繊維「デオマジック」は各方面で反響を呼ぶ。大阪から1000キロ離れた北海道釧路支庁の白糠町。記者発表から数日後、棚野孝夫町長のもとに、北海道庁経済部からデオマジックに関する新聞記事が送られてきた。
「人の糞便(ふんべん)臭だけでなく家畜の糞尿にも応用できないか」。棚野町長はすぐにシキボウの辻本裕開発技術部長に連絡。翌12年4月から畜産用臭気対策剤の開発が始まる。白糠町からは実験用に家畜の糞尿を提供され、両社は初めて、デオマジックの応用開発に挑んだ。
同8月、両社に加え、国や北海道の公的機関からなる「白糠町家畜環境対策協議会」が発足。同じ悪臭とはいえ、人間と家畜とでは臭いの成分が違うため、再び何百種類の香料の中から、最適な組み合わせと配合の割合を変える実験を何度も繰り返す。約3年かかり、畜産用臭気対策剤の開発に成功。15年春、「デオマジックHG」との商品名で全農グループの科学飼料研究所(群馬県高崎市)を通じて、畜産農家向けに販売を始めた。
食品用香料が主体の黄色がかった透明な液体で、原液はアーモンドのような臭い。使い方は、糞尿臭が出る畜舎や堆肥場から近隣住宅に向けて、原液を希釈して空中噴霧する。鼻に届くときには既にほのかな甘く良い香りに変化し、農家の悩みの種である臭気によるクレームがなくなるという。
もはや「悪臭バスターズ」の様相を呈した両社が凸版印刷と組み、次に挑んだのは、トイレの糞尿をくみ取る衛生車(バキュームカー)用だ。特殊車両メーカーの東邦車輌(横浜市鶴見区)と「デオマジックV1オイル」を開発、16年10月に発売した。
作業時の糞便臭がなくなることで、周囲のクレームを気にすることもなくなり、作業員の心理的な負担が大きく軽減された。また、東邦車輌の親会社である新明和工業とも同時期に今回の塵芥(じんかい)車用臭気対策剤の開発に着手した。
開発に携わった山本香料の肥下隆一取締役営業本部長は「一口に生ごみといっても、魚系、肉系、野菜系で臭いが異なる。ターゲットをどうすべきかで苦労した」と振り返る。
塵芥車に取り付ける臭気対策剤用の噴霧装置開発で協力した特殊車両メーカー、新明和工業の横瀬秀人・特捜事業部主任技師は「生ごみ収集での作業環境の改善につながる」と期待を寄せた。
新明和工業、シキボウ、山本香料と3社の協業をコーディネートした、凸版印刷の西日本事業本部の田淵直樹・ビジネスイノベーション本部長も「社会貢献につながるような価値のある製品の開発を後押ししたい」と話す。「臭気で困っている人はまだまだいる」と話すシキボウの辻本開発技術部長。新たな開発テーマは既に見つかっているようだ。(この企画は松村信仁が担当しました)
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