東芝、半導体売却へ「四面楚歌」 同床異夢4社の利害調整できるか
高論卓説経営再建中の東芝は21日、取締役会を開き、4月1日に半導体事業を分社化して設立した東芝メモリの売却先候補を官民ファンドの産業革新機構や政府系金融機関の日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタル、韓国半導体大手のSKハイニックスの「日米韓連合」に決定した。
5400億円の債務超過に転落する見通しとなった東芝は、東芝メモリの売却がうまくいけば債務超過を一気に解消できる。しかし、問題なのはこれまで東芝と、スマートフォンなどに使われる記憶用半導体「NAND型フラッシュメモリー」の製造を手掛け、四日市工場(三重県四日市市)を一緒にやっている米国のウエスタン・デジタル(WD)が他社への売却に反対していることだ。
東芝は2002年4月から米半導体メーカー、サンディスクコーポレートと四日市工場を活用しフラッシュメモリーの合弁事業(JV)を開始。現在では3つのJVを行っている。ところがサンディスクは15年10月21日、WDに買収。そのWDが今回、東芝メモリ売却に反対しているというわけだ。WDが東芝メモリ売却に反対するのは、東芝メモリが四日市工場を所有しているからだ。
もし東芝メモリがライバル企業の手に渡れば、WDは大打撃を受けることになる。サンディスクとWDと東芝の間では、合弁会社の株を相手の同意なく第三者に売却することを禁じることが契約に盛り込まれており、「合弁事業契約の譲渡禁止条項に明らかに違反している」として5月14日(日本時間15日)、売却差し止めを求めて仏パリにある国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所に仲裁申立書を提出した。
東芝は6月3日、四日市工場の株を東芝本体に移管しWD側の主張を無効にするという戦略に出た。「四日市工場の43万6200平方メートルの敷地や従業員は東芝メモリに残り、移動するのは東芝側の出資持ち分50.1%だけ。大きな影響はない」(東芝広報・IR部)というが、四日市工場は半導体メモリー事業の中核であるフラッシュメモリーを全て造っている。従業員も東芝メモリの約9000人中6200人が四日市工場の従業員、東芝メモリの中核事業だ。四日市工場の経営権を握れなければ東芝メモリを買収する意味はない。
東芝は入札参加者たちには「四日市工場は入札が終了し、WDの問題が解決した段階で東芝メモリに戻すことになる」(同)と説明し、納得してもらっているという。しかしWD側は訴訟で決着をつけると、さらに態度を硬化させ、15日には米カリフォルニア州上級裁判所に仲裁判断が出るまでの売却差し止めの仮処分手続きを開始。裁判所は7月中旬には判断を下すのではないかとみられている。
東芝は年内に売却を決めることができなければ2年続けて債務超過になる可能性があり、今後の再建計画に支障を来す恐れがある。これが買収交渉にも影響を与え、買収価格は最終的にはかなり安くなる可能性もある。
日本の技術流出を防ぎ、東芝を日本主導で再建したい経済産業省、四日市工場を手中に収めたいWD、東芝メモリのディールでキャピタルゲインを狙うベイン、技術が欲しいSK、東芝は同床異夢の4社の利害を調整し、今年度中に売却を実現できるのか。「四面楚歌(そか)」の状態に立たされている。
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【プロフィル】松崎隆司
まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。著書は「堤清二と昭和の大物」「どん底から這い上がった起業家列伝」など多数。54歳。埼玉県出身。
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