売却危機から起死回生へ パナソニックの自転車「売上高3倍増」目標の勝算

 
パナソニックサイクルテックが6月に発売したスポーツタイプの電動アシストサイクル「ジェッター」(右)と「ハリヤ」=5月29日、大阪市北区の電子会館(上野嘉之撮影)

 総合電機メーカーのパナソニックが、自転車事業の立て直しに乗り出している。製造販売を手がける子会社「パナソニックサイクルテック」(大阪府柏原市)の社長に4月就任した片山栄一氏は、今後10年のうちに売上高を3倍に伸ばす目標を掲げた。日本の自転車市場は長年、安価な中国・台湾製品に押され、国産メーカーの多くは縮小や撤退を余儀なくされてきた。しかし片山氏は、電気自動車(EV)や電動アシスト自転車によって乗り物の環境は激変すると指摘。「電動」というパナソニックの強みを生かし、反転攻勢に打って出る。(産経新聞社 上野嘉之、板東和正)

 鍵握るテスラとの提携

 「自転車業界はあまり変わらないと見られがちだが、定義を変えていけば大きく伸びるチャンスはいくらでもある」

 片山氏は産経新聞のインタビューでこう強調した。定義を変えるとは、電動化と少子高齢化の進展に沿って、自転車の社会的役割を変えることだという。

 特に電動化をめぐっては、劇的なコストダウンによって普及に弾みがつく可能性があるという。その鍵を握るのがEVだ。

 パナソニックは米EVメーカーのテスラと提携し、今年1月から米ネバダ州で工場を共同運営して車載用リチウムイオン電池を量産している。

 「世界の自動車市場1億台に対し、テスラの生産台数は今年、10万台程度。シェアは0・1%に過ぎないが、テスラの株式時価総額は500億ドル(約5兆5000億円)を超え、GMやフォード、パナソニックより大きい。それだけEVの普及が見込まれている」

 仮に自動車市場のEV比率が数%~10数%まで伸びれば、電池の需要も数十倍~百倍超に膨らむ。

 「テスラが年間100万台作る時代になれば、電池の価格は数分の1程度に安くなるのは間違いない」と片山氏。テスラはトヨタなどと異なって円筒形電池を採用しており、同じ技術を用いる電動アシスト自転車の電池もコストダウンできるという。

 電動アシスト自転車で最も高コストの部品である電池が数万円から数千円に下がれば、「市場に出る自転車のほとんどが電動になっても不思議ではない」と片山氏はみている。

 60歳でスポーツ自転車

 もう一つ、自転車事業成長のきっかけとなるのが、日本社会の高齢化だ。片山氏は「自転車、自家用車、バス、公共サービスを含めて高齢者の移動手段を考えたとき、電動アシスト自転車をどこまで高齢者にカスタマイズできるかが、パナソニックグループに課せられた大きな使命だ」とアピールする。

 その背景として、日本の生活環境が自転車向きであることを挙げる。例えば米国は国土が広く、個人の移動距離も長いため自家用車が最適だが、集積度が高い日本の都市では電動アシスト自転車の方が便利なことが多い。

 片山氏はもともと著名な経済アナリストとして活躍し、昨年1月にパナソニックの役員に登用された異色の経歴の持ち主だ。現在はサイクルテック社長のほか、パナソニックでBtoB(企業間取引)事業を中心に手がける社内分社「エコソリューションズ社」の副社長も兼務し、介護関連事業を担当している。高齢化社会への対応をグループ全体で推進する旗振り役の立場から、次のように語った。

 「今後、高齢者が増える一方、高齢者向けサービスを提供する世代の人数は減るので、自立できる高齢者を増やしていかないといけない。60歳でもスポーツ自転車乗るのが当たり前の時代とし、介護を受ける人を減らすために、電動で楽に乗りつつ健康になれるような商品ラインナップを増やしていきたい」

 売却の危機乗り越え

 とはいえ、パナソニックサイクルテックを取り巻く経営環境は厳しい。平成8年に初の電動アシスト自転車を発売し、現在は電動車が大部分を占めるが、売上高は平成24年3月期の311億円をピークに停滞し、29年3月期も288億円にとどまった。パナソニックグループ全体の連結売上高7兆3437億円に占める比率はわずか0・4%だ。

 パナソニックは27年に自転車用タイヤを生産する子会社「パナソニックポリテクノロジー」(現パナレーサー)を投資ファンドに売却。業界関係者によると、サイクルテック社の売却も模索し、競合他社などに提案があったという。

 そんな“斜陽事業”が、片山氏の社長就任で一転して成長を目指す。本当に売上高を3倍超の1000億円へと伸ばせるのか?

 片山氏は、国内自転車市場は3000億円規模、そのうち電動アシスト車は600億円程度と説明した上で、「市場の成長率をにらみながら他社との競争に勝ち抜くという発想ではダメ。そんな風に考えて魅力がある市場ではないし、未来もない」と言い切る。

 それよりも、「電動化と高齢化という2つの要因で自転車の定義が変わる。モビリティー(乗り物)全体の中で自転車は魅力あるマーケットだと旗印を立て、自発的な成長シナリオを提示する。そのくらいしなければパナソニックグループの中で存在感のある事業になれない」と訴える。

 一方で、短期・中期的な成長戦略としてスポーツサイクルの強化を打ち出した。すでに開発部門の増員について、パナソニック経営陣から了承を得ており、今後2年程度で商品を大幅に増強するという。

 パナソニックは近年、テスラへの電池供給に象徴されるようにBtoB事業に傾倒しているが、片山氏は自転車を「交通の変化や高齢化に対応する、社会性のある消費者向け製品」と位置づけ、世の中の流れを変えながら事業を伸ばしていく方針だ。

 パナソニックの前身である松下電器産業の創業者、故松下幸之助氏は、自転車販売店のでっち奉公を経て起業し、自転車用ライトの製造販売などをきっかけに一大電機メーカーの地位を築いた。そんな「祖業」ともいえる自転車事業が、パナソニック成長の新たな象徴になるかも知れない。