入るを計りて出ずるを制す
知恵の経営□アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭
安倍晋三政権の経済運営に対する評価は、経済学者やエコノミストらの間で割れるが、筆者は肯定的だ。特に日銀の黒田東彦総裁が進める「大胆な金融政策」によって多くの中小企業は資金繰りの悩みが大幅に減った。株式市場も活性化し、日経平均株価は2万円を上回り、民主党政権時代に比べれば間違いなく良くなっている。
大企業の2017年3月期決算は減収増益が多く、低いほど安定経営とされる損益分岐点比率は過去最低、手元資金も16年度末で112兆円と1年前から3兆円増え過去最高だ。
ただ中堅中小企業の経営者は「人口減少という基本問題が解決されていないので、これから売上高の伸びは期待できないし、大企業の採用増で中堅中小企業は新人採用が極めて厳しい。決して将来は明るくない」と話す。こんな環境の中での経営に対する筆者の基本的な考え方は「入るを計りて出ずるを制す」である。一言で表現すれば「損益分岐点引き下げの経営」だ。損益分岐点を引き下げる方策は3つある。
(1)売り上げを伸ばす。つまり販売の数量を伸ばすか単価を上げるかだ。尊敬する70代の経営者2人の例を示す。一人は建材関連の卸売業を営み、市場の将来を見通すと高付加価値の新商品開発が必須で、号令すると同時に自分自身もさまざまなところへ出向き、感性を磨き新商品のネタを探す。もう一人は飲食関連で、インバウンド需要を取り込むための集客の仕掛け作りと、より高級感・値頃感を出すメニューの開発を指示し、自らもアイデアを出す。2人はいずれも数量アップ、単価アップの策を練っている。
(2)変動費の比率を下げる。これは原価管理の徹底である。例えばトヨタグループでは「知恵と改善」という言葉で原価低減活動を続けている。新車開発の総責任者は主査(CE)が担当する。大事な仕事の一つに「原価企画」があり、「販売価格から利益を差し引いた残りが原価」という発想で原価は設計開発段階で企画している。
(3)固定費を下げる。会社は放っておくと固定費が増えるもの。経営者は絶えず目を光らせる必要がある。ドラッカーの建物を例にした名言に「この柱をなくすと屋根が落ちるか」がある。屋根を支えるのに不要な柱は無用ということだ。
依然、先行き不透明な時代が続く。優秀な経営者は業績好調でもリスクに備えるため、損益分岐点を引き下げる経営を心掛け、無駄な借入金をせず、財務健全性に配慮している。松下幸之助が絶えず口にしていた「ダム経営」の実践だ。
経営者には「入るを計りて出ずるを制す」経営と損益分岐点引き下げの旗振り役としてリーダーシップを発揮してほしい。
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【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
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