WDに「不当に売却を妨害」と非難 怒号なく静かなスタート
東芝株主総会詳報(1)経営再建中の東芝は28日午前、千葉市の幕張メッセで株主総会を開いた。同社は監査法人との意見対立で2017年3月期決算を確定できず、6月23日には6月末が期限だった有価証券報告書の提出を8月10日に延期すると発表。東証1部から2部への降格が決まった。負債が資本を上回る債務超過の解消に向け、半導体子会社「東芝メモリ」売却を進めるも、協業相手の米ウエスタンデジタル(WD)の反対もあり難航。総会では、一向に苦境を脱出できない状況に、業を煮やした株主から批判が相次ぐと予想される。
小雨が降る幕張メッセには、10時の総会開始前から大勢の株主が詰めかけた。50代男性は「保有株が紙切れになるのが気がかりで参加した。経営陣を一新すべき。時間は限られている」と語気を強めた。元社員で早期退職したという50代男性も「再建の道筋をしっかり示せと言いたい。社員の将来が心配だ」と思いやった。
総会は午前10時にスタートした。冒頭で綱川智社長が開会を宣言。「まずはおわびを申し上げたい」と切り出した。「本来なら年度の決算などをご報告するはずだったが、できない状況となった。元連結子会社で米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請した米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)を含め、監査手続きに時間を要している。そのため事業報告や決算報告ができなくなった。また、有報提出に向け、全力を挙げて努力してきたが、8月10日に延長せざるを得なくなった」と、事態を説明した。同社株が東証2部に指定替えされる点にも触れた。
綱川社長は「株主等ステークホルダー(利害関係者)のみなさまに、度重なるご心配ご迷惑をおかけしていることを改めておわびする」と謝罪。続いて他の取締役も立ち上がり、一斉に頭を下げた。
その後は、決算手続きの進捗(しんちょく)、16年度と17年度の業績見通し、WHの再生手続き、東芝メモリの売却、今後の東芝の姿の順で報告。決算手続きの進捗は、財務担当の平田政善専務が説明した。「WHグループが再生手続きを申し立てたことに伴い、同グループの決算・監査手続きは7月末まで時間を要する予定。そのため同グループに係る損失の計上時期などを含め、独立監査人による監査手続きが継続中。8月10日までに決算・監査手続きを完了させ、後日開催予定の臨時総会で改めてご報告する」と続けた。
それ以降は綱川社長が自ら説明に立った。東芝が米原発事業に絡み、現地の電力会社2社に与えていた「親会社保証」の金額について、一方のサザン電力と合意に至ったこと、もう一方のスキャナ電力とも交渉中で、影響額は17年3月期決算に最大限、織り込んだことなどが説明された。
東芝メモリ売却については、官民ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタルなどからなる「IBD連合(日米韓連合)」を優先交渉先に決めたことが報告された。「(優先交渉先に決めたのは)東芝メモリの企業価値、雇用確保などを総合的に判断した結果」とした。28日までとしていた最終合意が遅れていることについては「(IBD連合の中で)意見調整に時間がかかっているようだが、なるべく早期の最終合意を目指す」と説明した。
一方、WDが米裁判所に売却中止を求め提訴していることについては、「不当に売却を妨害しており、IBD連合にも理解していただいている」とした。
最後に、今後の東芝の姿を説明。「人々の暮らしと社会を支える社会インフラを核とする事業領域に注力していく」としたほか、エネルギー事業などの分社化で「各カンパニーの事業責任を明確化し、事業価値の最大化を図る」と説明した。
議案である9人の取締役の選任と、エネルギー事業などの分社化について趣旨が説明された後、成毛康雄副社長が株主から事前に寄せられた質問について一括回答した。
まず「経営危機に二度と陥らないためにすべきことは」との問いに対し、「不適切会計に続き、海外原発事業における巨額損失計上によって経営危機に陥り、改めて深くおわび申し上げる。現在、内部管理体制強化に取り組んでいる。グループ会社管理については、グローバル経営管理強化、リスクマネジメント強化の観点で臨んでいる」と成毛氏が回答した。
海外から撤退する原発事業に関し、「原発はエネルギーの安定供給、温室効果ガスの排出削減に貢献可能であり、重要なエネルギー源」とし、国内では引き続き責任を果たしていくことを強調した。分社化の社員への影響については「労働契約は新会社に承継され、労働条件に変更はない」と語った。
企業風土改革への取り組み状況については、「経営幹部を対象とした意識改革研修や、リーダーシップの資質を客観的に評価する『360度サーベイ(調査)』を実施し、人材育成などの材料としている」とした。ミーティングや対話を通じ、職場の風通しを良くするよう努めていることにも触れた。
一方、今後の人員削減については「現時点では検討していない」と説明。「経営陣、従業員が一丸となって経営危機を乗り越え、再生に取り組んでいきたい」と締めくくった。ここまで会場に怒号が飛び交うことはなく、株主は説明を静かに聞いている。
■詳報(2)風土改革、優良部門売却、副社長の眼帯姿にも 株主から質問相次ぐ に続く
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