部下をやる気にさせる管理手法 今では見られなくなったかつてのベテランの技
高論卓説身に付けたいスキルをパーツ分解し、コア(中核)スキルを反復演習する「分解スキル反復演習型能力開発プログラム」を実施していると、さまざまな相談が寄せられる。最近、特に多い相談に「マネジャーが部下をマネジメントできない」「シニア層が若手とコミュニケーションが取れない」「経営者と社員との間の断絶が生じた」というものがある。
マネジメントとコミュニケーションの課題は絶えないが、対面でのコミュニケーション機会が減少していたり、価値観が多様化したりして、難易度が上がっていることは確かなようだ。
原因を突き詰めていくと、どうやら、相手の「モチベーションファクター(意欲が上がりやすい要素)」を無視していたり、無視していなくても誤解していたり、誤解していなくてもそれに合致したコミュニケーションができていないことにあることが、分かってきた。
私は、モチベーションファクターを、現在では6つに区分している。(1)目標達成(2)自律裁量(3)地位権限(以上を牽引(けんいん)志向と呼んでいる)(4)他者協調(5)安定保障(6)公私調和(以上を調和志向と呼んでいる)-などである。ダイヤモンド社はこれを肉食系と草食系、扶桑社はこれを狩猟型と農耕型と名付けてくれた。中国でもプログラムを実施しているが、中国では狼型と羊型と呼ぶと言う。
例えば、部下が安定保障・公私調和型の場合、上司が目標達成や地位権限型だからといって、「休日返上で徹夜して目標達成して、昇給・昇格を狙おう」とげきを飛ばしても逆効果だ。部下が自律裁量型で、上司が安定保障型で心配性だからといって口を出しすぎる「マイクロマネジメント」をしてしまっては、部下を憂鬱な気分にさせてしまう。
安定保障・公私調和型の部下には、「勤務時間や休日の計画も立てながら、期限までにこの目標を一緒にやり遂げよう」と言った方が、はるかに部下のパフォーマンスは高まる。自律裁量型の部下には、「任せたぞ。気になることがあれば、いつでも言ってきていいのだぞ」と言えば、さらにやる気が高まる。
こうした、いわば人を見てマネジメントやコミュニケーションをするという技は、かつてはベテランの背中を見て、後輩が受け継いできたスキルのように思える。それが、今日のビジネスシーンでは、とんと見られなくなってしまった。
分解スキル反復演習により、モチベーションファクターに合わせた話法を修得すると、マネジメントやコミュニケーションがしやすくなったという効果が、即座にそれも格段に表れる。
このように言うと、「マネジャーが部下のモチベーションファクターに合わせなければならないのか」「合わせるのは部下ではないか」という声を聞く。私の答えは、「合わせるスキルを持っている方が合わせればよい」ということだ。マネジャーが部下に合わせる、その方が部下のパフォーマンスが上がり、チームのパフォーマンスが上がるのだから、躊躇(ちゅうちょ)せずにそうすればよいだけなのだ。
「部下が言うことを聞かない」「若手がとんでもないことを言う」「経営者についてこない社員が悪い」と言って部下を切り捨てることはたやすいが、それでは組織づくりができないことは、自明と言わざるを得ない。
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【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし グローバルトレーニングトレーナー。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、SAP、PwC、KPMGなどを経て、リブ・コンサルティングで組織開発事業部長を務める。横浜国立大学非常勤講師。著書に「チームを動かすファシリテーションのドリル」(扶桑社)。55歳。長野県出身。
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