銀行カードローンに綻び…消費者金融と貸出残高逆転 多重債務の温床に

 

 ■貸し金リスク「業者に丸投げ」

 急拡大を続ける銀行カードローンに綻(ほころ)びが出始めた。銀行にとっておいしいビジネスモデルは、利用者の多重債務の温床と批判されるようになったからだ。その真相を探った。

 「銀行だから安全だと思った」

 静岡県内のパート男性(66)は低い声で、当時の心境をぽつりぽつりと絞り出すように打ち明けた。

 「担当者も借りられるよう頑張ってくれ、そのときは『ありがとう』という気持ちだった」。だが、気づけば借金は1000万円まで積み上がっていた。昨年、静岡地裁で、借金を減額してもらう「個人再生」の手続きを取った。

 サラ金なら手出さず

 きっかけは約6年前、長男(24)の大学進学だった。教育ローンを手掛けている政府系金融機関から300万円を借りたのだ。金利は「2~3%程度」と低く、しかも返済は「4年後から」という好条件。返せるはずだった。

 ところが長男は大学院進学を希望し、男性は別の金融機関からさらに教育ローン160万円を約6%の金利で借りた。当時の月収は20万円程度。月々10万円近くに膨らんだ返済はすぐに行き詰まった。手を出したのが地元金融機関のカードローンだった。

 「サラ金(消費者金融)だったら手を出さなかった。銀行という安心感はあった」

 教育ローンの返済や生活費の穴埋めに50万円、また50万円…。最終的に総額は1000万円に膨れ上がり、カードローンの金利は約14%。明らかに返済できる額ではなかったが、金融機関の担当者は返済計画を問いただすこともなく、貸してくれたという。

 この男性は昨年3月の退職を機に、別の金融機関で「借金のおまとめ」を売りにしたローンを借りて一括返済しようとしたが、審査に通らなかった。にっちもさっちもいかなくなり、司法書士に相談したところ、個人再生を勧められた。借金は約300万円に減り、7月から月6万円ずつの返済を開始する。

 「気軽にお金を借りてしまった。取り立てもなく、返さなければという意識が働かなかった」

 総量規制の“対象外”

 消費者金融と銀行カードローンの貸出残高が逆転したのは2011年度のことだ。

 金融庁で開かれた多重債務問題に関する有識者懇談会で示された資料によると、同年度末の銀行カードローンの貸出残高は3兆3124億円。消費者金融の3兆792億円を初めて上回った。「銀行」という安心なイメージに加え、30分程度で借りられる利便性が受けた。

 きっかけは、10年の「総量規制」の導入だった。消費者金融など貸金業者は、年収の3分の1を超える貸し出しが禁じられた。

 規制の効果はてきめんだった。同時期に上限金利が、「年29.2%」から「貸付額に応じ15~20%」に引き下げられたことも相まって、貸金業者による貸出残高は減少する。その反動で台頭したのが、総量規制の“対象外”とされた銀行カードローンだ。

 当時の銀行は、個人向け貸し出しは住宅ローンを除くとほとんどなかったという。このため、「銀行への総量規制は必要ない」というのが共通認識だった。

 今や銀行カードローンのテレビCMや電車の中づり広告を目にしない日はない。サラリーマンでにぎわうJR神田駅(東京都千代田区)前のメガバンク支店をのぞくと、全てのATM(現金自動預払機)にカードローンの広告が掲げられていた。

 7年前の総量規制などで大手消費者金融の経営は悪化。大手銀行は次々と消費者金融を傘下に収め、個人向け貸し出しのノウハウを取り込んだ。

 融資業務と一線画す

 さらに日銀が2013年に導入した大規模な金融緩和も銀行カードローンの伸びに拍車をかけた。超低金利下で銀行の貸出金利と預金金利の差である「利ざや」は大幅に縮小し、各行が起死回生の一手として目を付けたのが高金利のカードローンだった。

 リスクがつきものの通常の融資業務とは一線を画し、銀行が損をしない仕組みも練り上げた。

 カードローン利用者に貸し出すお金は銀行が全額用意するが、利用者から入る金利の一部を傘下や提携先の消費者金融に回す代わりに、消費者金融が利用者の債務を「保証」。返済が滞った場合は利用者に代わって銀行に返済する仕組みだ。

 日本弁護士連合会の意見書によれば、三菱UFJフィナンシャル・グループの場合、傘下の消費者金融であるアコムの16年3月期の貸出残高(無担保)は7582億円、保証事業の残高は、これを上回る8857億円に達した。

 つまり、規制をつけられた消費者金融が「貸し手」から「保証人」に姿を変え、規制のない銀行の融資拡大を後押ししている形だ。

 ある大手消費者金融の社員は「銀行で実際に電話を受けているのは、うちから銀行に出向している社員がほとんど」と証言する。債務を保証するだけでなく、実際は審査や回収作業なども肩代わりしており、「丸投げに等しい状況」(同社員)という。

 「銀行としての節度というか、上品さを保つ余裕がなくなっている」

 第一生命経済研究所顧問の大森泰人(58)はそうこぼす。大森はかつて、金融庁の担当参事官として総量規制を導入した中心人物だ。

 「回収は二の次。とにかく営業ノルマを達成しなければならなかった」

 借り手の姿見えず

 大手行関係者はこんな反省の弁を口にする。金融緩和による金余りで主力の企業向け融資が伸び悩む中、年収が少ない人への過剰なカードローン貸し付けに目をつぶった恐れはある。

 大森も「(貸し金業者に)丸投げすることで、銀行は借り手の姿が見えていないのではないか」と危惧する。

 6月15日に全国銀行協会会長に就任した三菱UFJフィナンシャル・グループ社長の平野信行(65)は同日の記者会見で、銀行カードローンへの法規制強化に反対の考えを強調する一方、「一部に行き過ぎがあったことは私どもも懸念している」と釈明に追われた。

 全銀協が5月に実施した会員銀行へのアンケートでは、3月以降に融資限度額を引き下げたのは7%にとどまった。

 大森は最近、総量規制を導入した当時の大手行幹部との雑談を思い出す。

 幹部「銀行は規制の対象ではないですよね」

 大森「今のところはね」(敬称略)