世界を驚かせた京大発EVベンチャー「GLM」 事業の転機はトヨタからの“移籍組”
京都発 輝く昨年9月に開かれたフランスの車の祭典「パリ・モーターショー」。「フェラーリ」「フィアット」など世界の名だたるブランドの最新車が披露される中、従業員わずか20人余りの京都のベンチャー企業が世界を驚かせた。
「(2014年に発売した)『トミーカイラZZ』のような電気自動車(EV)を量産するメーカーは世界にほとんどない。日本の安全基準を満たしたEVをベンチャーがつくるのか、と評価をいただけた」
京都大学発ベンチャー、GLMの小間裕康社長(39)は、パリで出展したことにより今後の事業展開に一定の手応えをつかんだ。これまで商談を断られ続けた世界的な大手部品メーカーなどから取り引きの問い合わせが増えたのだ。
同社がパリを舞台に世界で初めて披露したのは、19年の量産開始を目指す次世代EVスーパーカー「G4」だ。ドア開閉時に4枚のドアが跳ね上がるスタイルが特徴で、最高出力540馬力、最高時速250キロ。想定価格4000万円の超高級車。1000台の販売を目指し、年内に試作車の走行テストを行う準備を進める。
“共感”が支えに
創業のきっかけは10年に、京大の松重和美副学長(当時)らが進めていた京都の“幻のスポーツカー”「トミーカイラ」をEVで復活させるプロジェクトを事業化したことだ。メンバーの一人だった小間社長は「京都の産官学連携の仕組みを使えば事業としてうまくいくのでは」と考えたのだ。
ただ現実は厳しかった。「業界、なめてるんじゃないの?」「ナンバー、取れるの?」。周囲の声は冷たかった。ある大手部品メーカーは「ベンチャーの車で不具合が出ると、部品を供給した当社の責任になる」と断られた。
そんな逆風が一変したのは、トヨタ自動車出身のエンジニアらがGLMの車作りの理念に共感し、転職してきてからだ。理系の知識がない小間社長は「私だけの説得ではうまくいかなかった。才能ある人たちがGLMに集まってくれたことで、事業が前に進んだ」と振り返る。
同社初の市販車、トミーカイラZZの開発には、地元・京都の電子部品メーカー各社から協力が得られた。電源として欠かせないジーエス・ユアサコーポレーションのリチウムイオン電池をはじめ、オムロンやニチコンの電子部品。車の量産は京都府北部の舞鶴市にある小阪金属工業が担当するなど、府内に同社のEV生産への協力体制が構築されていった。
基盤事業をメインに
同社の真の狙いは、トミーカイラZZやG4といった完成車販売でなく、EVのプラットフォーム(基盤)事業にあるという。車のボディーを除く、ハンドルやモーター、電源などを積んだ本体部分を、車を作りたい外部企業に販売する取り組みだ。これが将来の屋台骨になるという。
このプラットフォームを活用し、素材大手の旭化成が今年5月にスポーツ用多目的車(SUV)タイプの試作車を報道陣に公開した。小間社長は「完成車の販売事業は限られた消費者層にとんがったものを届けるもの。プラットフォーム事業がメインのビジネスモデルになってくる」と明かす。
GLMブランドの次世代車「G4」の量産がスタートする19年ごろをめどに、GLMのプラットフォームを使う他社製の新車も世の中に販売される戦略を描く。京大発ベンチャーの情熱が、大きく花開こうとしている。(西川博明)
◇
【会社概要】GLM
▽本社=京都市左京区吉田本町京都大学VBL(今秋をめどに同市伏見区竹田向代町74-3へ移転予定) ((電)0774・39・8822)
▽設立=2010年4月
▽資本金=32億2914万円(17年6月時点、資本準備金や資本性ローン含む)
▽従業員=23人(17年5月時点)
▽売上高=非公表(17年3月期)
▽事業内容=電気自動車(EV)スポーツカーの開発・販売や関連サービス
□小間裕康社長
■日本の最先端技術を発信
--創業から7年。進捗(しんちょく)状況は
「開発の初期投資があり、採算が合っていない。まだスタートラインに立っている。トミーカイラZZという安全な車を作れるようになった段階だ」
--GLMの社員は“タレントぞろい”と聞く
「トヨタ自動車や三菱電機から転職したエンジニア。変わったところではファンド運営経験者がいて、資金調達が広がった」
--有名・著名人もGLMの事業を支援している
「元ソニー社長の出井伸之さんからは部品のサプライヤーなどを紹介いただき、XJAPANのYOSHIKIさんからは新しい感性での車作りのアドバイスをいただいている」
--御社のビジネスモデルは
「事業モデルは2つある。G4などの完成車は、とんがった商品を中規模でつくる。明確に限られた層にアプローチする。本業の大きなビジネスは、他社に提供する車のプラットフォーム(基盤)事業。メインのビジネスモデルにするつもりだ」
--なぜそうした事業モデルを
「車作りで(部品メーカーなどと)協力関係が構築されている。日本の最先端技術を世界へ発信する会社になっていくためだ。完成車の事業以上にプラットフォーム事業は大きな市場がある」
--完成車のトミーカイラZZ、G4の違いはどこに
「ZZは徹底して走る、曲がる、止まる、にこだわった。G4はエアコンやエアバッグなど快適性を備えた車になると思う」
--大学院で学んだことは
「2年間、自分が信じるビジネスの根拠や前例を学べた」
--京都に本社を置く利点は
「東京より土地が安く、ものづくり企業も集まっている。特に京都には電子部品メーカーが多いことだ」
◇
【プロフィル】小間裕康
こま・ひろやす 甲南大法卒、京大大学院経営管理教育部修了。甲南大在籍時から約9年間、音楽家派遣ベンチャーの創業・経営に携わり、大学院在籍時の2010年、京大の電気自動車(EV)プロジェクトを母体にグリーンロードモータース(現・GLM)を創業し、現職。39歳。兵庫県出身。
≪イチ押し!≫
■トミーカイラZZ バイクのような爽快感
GLMが初めて市販した電気自動車(EV)「トミーカイラZZ」は2人乗りのスポーツカーだ。価格は税抜き800万円と高価だが、2014年の発売以降、数十台が売れた。大きな売りが「バイクに乗っているような爽快感」(同社広報担当の河内玲央さん)。最高時速180キロ。アクセルを踏み込めば数秒で時速100キロまで到達する。オープンカーでかすかなモーター音しかしない分、加速するたびに風をより強く感じる。総重量は約850キロで一般的な軽自動車より軽い。ただ1回の充電で走ることができる距離は約120キロにとどまるため、改良も検討している。
具体的には、7月の国の自動車保安基準改正に合わせ、素材大手、帝人の最新技術を活用。今秋以降に販売するZZはフロントガラスをポリカーボネート樹脂製に切り替え、窓の重さを3割軽減する。
関連記事