「加熱式たばこ」商戦激化へ 先行アイコスをJTとBATが追撃 その風味は…
大手3社による「加熱式たばこ」の販売合戦がついに本格化してきた。これまで一部地域でテスト販売していた日本たばこ産業(JT)と英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の2社が、相次ぎ東京都内での販売を開始。先行する米フィリップ・モリス(PM)は、3月発売の改良版機種で迎え撃つ。愛煙家の選択肢はぐっと広がるが、しかし紙巻きたばこの新製品のように気軽な「試し買い」をしにくいのは悩ましい。そこで、各社の動向とともに3製品の特徴を比べてお伝えしたい。
全国での対決は来年に
実はJTの「ploom TECH(プルーム・テック)」は、同社初の加熱式たばこではない。初代「プルーム」を2013年に発売している。たばこと香料の詰まったカプセルを電気加熱して吸う仕組みだが、蒸気の熱さやカプセルの割高感が不評で、販売を終えた。
その名称を引き継ぎ、16年3月に福岡市限定で発売したプルーム・テックはまったくの別物だ。
今年6月29日、銀座と新宿の旗艦店など東京都心約100カ所で販売を始め、注文殺到で中断を繰り返したネット販売も再開。ただ全国での店頭販売は18年上期と、3社中最後になる。紙巻きたばことまったく異なるたばこカプセルの生産設備を整えるのに時間がかかっているためだ。
PMの「iQOS(アイコス)」は14年11月に名古屋地域で発売し、全国拡大を16年4月に完了させた。販売台数はすでに約300万台に上り、JTとBATを大きくリードしている。
アイコス専用たばこの生産国は、イタリアだけだった。そのため、同国から日本へのたばこ類輸出額が3年間で662倍に急増するという珍事も起きた。
本体の品薄はなかなか解消しておらず、取扱店でもすぐ購入できる状況ではない。オークションサイト上にはプレミア価格での出品が目立つ。カラーバリーションが多いことも、価格高騰に拍車を掛けている。
最後に、BATの「glo(グロー)」。テスト販売を16年12月に仙台市で始めた。まず仙台を選んだのは、主力銘柄「KENT」のシェアが他の大都市より高いからだ。「紙巻きたばこからの乗り換え需要を取り込みやすい」(BAT日本法人のロベルタ・パラツェッティ社長)と判断した。
販売実績は約4万8000台で、「仙台市内の喫煙者の5人に1人が購入した計算」(同社)になる。7月3日に店頭販売を東京都、大阪府、宮城県全域に拡大。年内に全国へ広げる。
加熱式は“蒸したばこ”
3製品とも、各社の旗艦店などへ足を運べば試しに吸うことができる。その参考までに、記者の評価を紹介したい。1日の喫煙量20本弱、銘柄は22年間一貫してJTの「HOPE」で、重視する要素は“キック”と“煙量感”-という愛煙家の感想だ。
【アイコス】
1年ほど前に都内で販促キャンペーンに遭遇して試した際には、「次世代たばこの完成形」だと感じて迷わず購入した。それより前に試していたJTの初代プルームが今ひとつだったせいもある。
専用たばこの太さが紙巻きたばこと変わらず、煙量感は3製品の中でもっともリッチで吸いごたえを感じる。しかし「アイコス臭」とも言われる独特の焦げたような香りが気になる。これを許せるかどうかは、ユーザーの好み次第だろう。
専用たばこは、グリセリンなどを混ぜてペーストにしたたばこ葉が折りたたまれて詰まっている。ホルダーの穴に突き出している加熱ブレードが刺さり、蒸気を発生させる構造。ホルダーの穴にペーストのカスがたまりやすいのだが、付属の専用ブラシでないと清掃しづらい上、下手をすると心臓部の加熱ブレードを壊しかねない。
1本吸うごとにホルダーを本体にしまい、充電する必要があるのは不便だ。
【グロー】
充電池内蔵の本体を持って吸うというスタイル。専用たばこがストローのように細く、小さな紙パック入りのジュースを飲むような感覚だ。本体の重量は101グラムで、疲れるほどではないにしろ、持ち続けるのが少し面倒臭い。
専用たばこの作りは、従来の紙巻きたばこに近い。「たばこの内側から加熱する」アイコスに対し、グローはたばこを差し込んだ穴の「周囲から加熱する」仕組み。そのせいなのか、葉や香料のブレンドの違いなのかはわからないが、風味がよりクリアだと感じる。
たばこを差し込む穴が本体の底部まで貫通しているため、専用ブラシを使わなくてもティッシュペーパーの「こより」などで簡単に清掃できる。しかし、底部のふたには細かい空気穴が開いており、そこから汚れがにじみやすい。こまめな清掃が求められる。
連続で吸うことは可能だが、予熱時間40秒が長い。
【プルーム・テック】
ペンのような形状で、携帯しやすい。3段式ロケットのように、充電池内蔵の本体▽水や食品添加物に使うグリコールなどを混合した専用リキッドのカートリッジ▽粉砕たばこ葉の詰まったカプセル-をつなげて吸う。
加熱されたリキッドの蒸気がたばこカプセルを通ってニコチンを揮発させる。2製品とは異なる「間接加熱」のため、雑味がもっとも少ないように感じる。たとえば“森の香り”といった新フレーバーも作りやすいのではないか。もっとも、キックは弱い。蒸気の温度が約30度と低いのも一因か。メンテナンスフリーなのはありがたい。
カプセル1個で約50服、リキッド1本でカプセル5個分使える。スイッチがなく、吸い込んだときだけ通電する。カプセルを一度に吸いきらず、何回にも分けて吸える点が画期的だ。
ただ「残量」はわかりにくい。カプセルがプラスチック製、カートリッジは金属製で、喫煙所の灰皿に捨てると迷惑がかかる。
3製品はいずれも「電子たばこ」と区別する意味で「加熱式たばこ」と称している。しかし「水たばこ」や「かみたばこ」、「かぎたばこ」と比べ、何とも冗長な呼び名ではないだろうか。ニコチンを含む蒸気を吸うという仕組みに着目するなら、“蒸したばこ”と呼ぶ方がイメージに合う気がする。
日本は加熱式の主戦場
日本企業であるJTは当然といえるが、米PMのアイコスも英BATのグローも、最初の発売国に日本を選んだ。それはなぜか。
「イノベーションを好む日本人の特性」や「周囲に配慮する国民性」に加熱式がマッチするからだ-。両社とも“ヨイショ気味”に説明する。しかし最大の理由は、たばこをめぐる日本の法制度の特殊性にある。
欧米諸国では、数年前から「電子たばこ」の人気が高まっている。化学合成されたニコチンなどを含むリキッドを、電気で加熱して吸う仕組みだ(ニコチンゼロのリキッドもある)。
しかし日本では、ニコチン入りのリキッドは「医薬品及び医薬部外品」に当たり、個人輸入を除き販売が禁じられている。3大メーカーが商品化するのは難しい。そこで各社は、たばこ葉を使った「たばこ製品」として加熱式たばこを開発し、電子たばことの競合が少ない日本が主戦場となっているわけだ。
スイスも日本と同様の法規制だといい、BATはグローの有力市場の一つに位置付けている。ただ「陸続きのドイツやフランスへ越境して簡単に購入できるので、電子たばこも日本より普及している」(BAT日本法人のロベルタ・パラツェッティ社長)のが実情。日本市場は四方を海に囲まれ、重要性がより高い。
選択肢広がる「乱戦」の可能性は
現在、3社の専用たばこやたばこカプセルは、紙巻きたばこの旗艦銘柄(JT=メビウス▽PM=マールボロ▽BAT=ケント)と同じ名称で、近いイメージの風味に設計している。その事実からも、各社の力の入り具合がよくわかる。
過去5年間で、BATは次世代たばこの開発に1000億円以上を投じた。JTも「今年や来年がゴールではない。『10年戦争』の始まりだ」(小泉光臣社長)と力を込め、研究開発費の増額を明らかにしている。
喫煙人口が年々減る中、加熱式が国内たばこ市場に占める割合は急拡大している。2016年末の約5%から17年末には15%まで上昇する見込みで、20年には30%に達するとの見方もある。
しかし専用たばこのバリエーションが増え、さらには他社デバイス向けの商品も発売し合う「乱戦」にまで発展すれば、紙巻きから加熱式へのシフトは一層加速する可能性がある。
東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策の議論も高まる中、加熱式たばこのシェア争いがさらに過熱していくのは確実だ。(産経新聞社経済本部 山沢義徳)
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