「もう限界」パナ幹部が脱大阪宣言 戸惑う関西企業、東京シフト「遅すぎる」の声も

 
コネクティッドソリューションズ(CNS)社」の樋口泰行社長=東京都内

 大阪は企業経営がしにくいから東京に行く-。今年5月、大阪府門真市に本社を置くパナソニックの事業方針説明会で衝撃の発言が飛び出した。これから主軸を担う企業向け製品を手がける事業の主要拠点を、門真市から東京に移転させるという。関西経済は有名企業の流出などで地盤沈下が進む。関西企業の代表格、パナソニックもその流れにさおをさした形だ。

衝撃の発言

 「『門真』発想ではもう限界。すぐに東京に行くことを決めた」

 パナソニックが5月30日に東京都内で開いた事業方針説明会。平然とした表情で、過激な言葉を放つ幹部の姿があった。

 発言の主は、IoT(モノのインターネット)技術を活用した企業向け製品などを手がける社内分社「コネクティッドソリューションズ(CNS)社」の樋口泰行社長だ。松下電器産業(現パナソニック)出身で日本マイクロソフトやダイエーのトップを歴任し、今年4月に異例の復帰を果たした。

 樋口氏はこの日、10月にCNSの本社機能を東京都に移すと明言。「門真限界」論にとどまらず、「大阪中心の製造事業部だと、意識や戦略の転換に少し重たい」などと刺激的な発言を続けた。

 松下電器産業創業者の松下幸之助氏は昭和8年、本社を大阪市福島区から門真市に移転した。その後、三種の神器(洗濯機・冷蔵庫・白黒テレビ)の家電ブームで工場を拡大。門真はパナソニックの城下町として発展した。

 パナソニックの4つの社内分社のうち、太陽電池や車載機器などを手がける2社は門真市に、白物家電などの1社は滋賀県草津市に、それぞれ今後も本社を置く方針だ。それだけに、樋口氏の門真脱却宣言に戸惑う関西企業関係者は多かったという。

「遅すぎた」判断

 樋口氏は顧客が東京に集中していることを移転の理由に挙げ「みんなでお客さまの近くに行く」と語った。事実、工場の稼働を効率化するIoTのサービスや旅客機の座席に備え付ける映像・音響(AV)機器事業の9割近くの顧客は東京にいるとされる。

 またCNS社が手がけるサイバーセキュリティー事業では、競合他社のほとんどが東京に本社を構える。同業他社の幹部は「サイバー対策に取り組む関西企業は東京より圧倒的に少なく、大阪で事業をしてもメリットはない」と話す。

 パナソニックの東京シフトはむしろ「遅すぎた」という指摘も多い。

 同じ関西発祥の有名企業であるサントリーホールディングス(HD)は昭和50年ごろから、ビールやウイスキーなど主要事業の機能を東京に移してきた。大阪よりも人口の多い東京を選ぶのは「自然な流れ」(サントリー社員)だという。

進まない地方移転

 一方、政府は平成27年、東京一極集中を回避するため、本社機能を地方に移転した企業を対象とする優遇税制を創設した。

 これを受け、ファスナー大手のYKKグループは同制度を活用して人事や経理など本社機能の一部を移転。東京の本社から富山県黒部市の拠点に約230人の社員が移った。

 ただ、経済産業省によると、本社機能の移転のために制度を活用する計画を立てた企業は、今年5月末時点で16社にとどまる。帝国データバンクによると、28年に本社機能を首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に移した企業は310社で、首都圏から他道府県への転出は217社。6年連続の転入超過となった。

 近畿大学経営学部の松本誠一准教授(経営学)は「税金の優遇措置を受けることよりも、東京での事業拡大や最前線の情報獲得などを優先する企業の方が多い。地方ならではの成長戦略を企業に提案する政府や自治体の取り組みがより求められる」と指摘している。