できないことは3つあるけど…衣類を折りたたむAI「ランドロイド」受注へ

日本発!起業家の挑戦
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの阪根信一社長

 □セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 阪根信一社長に聞く

 人工知能(AI)は、どんな課題をこなすのが苦手なのか。その答えに驚かされることがある。碁やチェス、クイズ番組ではすでにAIが世界トップレベルのヒトに勝ち、自動車の運転や作曲でも多くのヒトより優れた能力を発揮しているのは周知の通りだ。しかし、そのAIにとっては、なんと洋服をたたむことが難しいのだそうだ。

 セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(以下、セブンドリーマーズ)の阪根信一社長は、洗濯物を折りたたむという「複雑な」課題に12年前から取り組んできた。そして、ついに今年、全自動衣類折りたたみ機の受注・出荷を始める。衣類を折りたたむロボットは、世界市場を見渡しても他に例がない。本機の製造はパナソニック、大和ハウス工業との合弁で進める。

 セブンドリーマーズは、よく耳にする典型的なスタートアップとは異なる。同社の成り立ちや、世の中にまだない物を創り出す姿勢から、多くの日本企業が、イノベーションの興し方を学べるだろう。

 AIでは難しい作業

 --ランドロイドとは

 「全自動衣類折りたたみ機です。大型の家庭用冷蔵庫ほどのサイズで、洗濯・乾燥した衣類を下部の引き出し(インサート・ボックス)に放り込んでつまみ(サークル・インターフェース)を回すと、ランドロイドがたたんで、アイテム別か着る人別に仕分けします。利用者は真ん中の棚(ピックアップ・トレイ)から衣類を取り出し、収納します」

 --シンプルな機能のようですが

 「AIにとっては簡単な作業ではありません。とても難しいんです。私たちは2005年にこのプロジェクトを始め、ロボットアームでTシャツやタオルを折りたためるようになるのに、3年要しました。でも、当時はまだ、人間がある決まった方法で衣類を置けばたためるだけの機能でした。そこからが長かった。つまり、折りたたむこと自体が難しいのではなく、洗濯かごの中にランダムに放り込まれた衣服から1つを取り上げて広げ、画像を解析して認識し、それから適切にたたむ、という一連の作業をこなせるようになるまでの開発に年月がかかりました」

 --世界ではすでに競争が始まっているようですね。カリフォルニア大バークレー校ではTシャツやタオルをたたむロボットが開発されています。米Foldi Mate(フォルディメイト)も予約受け付けが近く始まりそうです。

 「この分野の研究は長年行われてきました。しかし、指摘されたいずれもまだ製品の販売予約を始めていません。また、その2つは、ロボットが衣服をたたむ前に、利用者が指定の場所に衣服をきちんと置くことを前提としています。これは、実際に人間の代わりに家事をこなす機械としてあまり役立つアプローチとはいえないと思います。利用者は、シャツを決められた通り置く時間があれば、自分でたためてしまいますから」

 --では、ランドロイドは何でもたためるのですか。ズボン、シャツ、靴下も?

 「できないことが3つだけあります。裏返しになった服はたためません。それに、ワイシャツのボタンをかけたりはずしたりできません。また、靴下もたためません」

 --靴下はたためない?

 「厳密に言えばたためますが、今のところ、右と左のペアを正しく組み合わせることができません。AIは、靴下合わせが非常に苦手です。ちょっとしたサイズの違いや手触りの違いによって、簡単に混乱してしまいます。ただ、今年中にはその機能を準備したいと思っています」

 --AIは機械の中に搭載されているのか、クラウド上に存在するのか、どちらですか

 「両方ですが、最も複雑な計算機とAIエンジンはクラウド上です。それによって価格を低く抑えられますし、肝心なのはすべての顧客のためにランドロイドのパフォーマンスを向上させるのが容易になるところです。たとえば、ランドロイドを予約して購入してくれた利用者は、靴下をたたむ機能の準備が整ったらすぐにそれを使えるようになります」

 時間短縮が課題

 --靴下の組み合わせ以外に改善すべき点は

 「スピードですね。アイテム1つに5分から12分かかっているのが現状です。実際には、衣類を放り込んだら全自動ですから、それほど大きな問題ではありませんが、やはり速く終わる方が便利なので、少しでも時間を短縮しようと改良を進めています」

 --セブンドリーマーズは異色のスタートアップですよね。ある意味では、中規模の家業のようです

 「最近はスタートアップのように経営していますが、そうですね。私は1999年にアメリカの大学院で化学の博士号を取得して、帰国してから父の会社経営を手伝いました。父の会社は、機能性材料の研究開発企業で、私はそこで新しい事業をいくつか立ち上げ、2003年にCEOに就任しました。08年には子会社化した繊維強化プラスチック製造企業の社長になりました」

 「10年頃までに、私は資金調達をしたい、上場したいと考えるようになっていましたが、会長であった父は外部投資家を嫌い反対しました。おそらく、私の祖父が起業して上場し、経済的には成功したけれど自分の会社のことを最終的には自分で決められなくなったという経験が父に影響を与えていたのだと思います」

 --あなたは起業家の3世に当たるということですか

 「そういうことになりますかね。結局、父と私は革新的なもの作りに特化した部門を新会社として設立することを決めました。それがセブンドリーマーズです。まずシリコンバレーで起業、14年に日本で株式会社としました。私がCEOに就任し、事業拡大のために資金調達をしました。設立以来、総額100億円を調達しました。初期の投資は他の製品開発に使われていますが、最近調達した資金はすべてランドロイドの開発と、海外進出の攻勢を強めるためのものです」

 --なぜ海外進出を早い段階で進めるのですか

 「今、私たちは他社に比較して非常に大きな強みを持っているからです。世界中で実用的な衣類折りたたみ機はランドロイドだけです。それに、今の時代、市場は必然的にグローバルです。他社はそのうち技術を上げて、市場に製品を投入してくるでしょう。私たちは、常にその先を行っていたいのです。この分野で、世界で最も名の知れたブランドになって、設定した売り上げ目標を達成したい。日本企業の多くが国内市場のみに目を向けがちですが、セブンドリーマーズのような小さな会社が世界に出ていけるのですから、他の会社にできない理由はありません」

 ランドロイドを見ていると、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」が思い出されてならない。色形が、映画のオープニングの黒い石板に似ているのだ。また、中央のつまみは、人工知能HALを想起させる。しかし、似ているのは見た目だけ。誰もが知る通りHALは後に殺人鬼に変貌するから、両者を比較したら怒られてしまうかもしれない。AIが簡単にこなしてしまう作業と、習得に時間がかかる作業について考えれば考えるほど、将来、生活にもっと深く浸透することになるであろうAIは、ヒトのようなHALではなくランドロイドのような物になるのだろうと確信する。一家に1台ランドロイドがある未来はすぐそこに迫っている。ファッションレンタルのairClosetやIoT家電のCerevoとの協業など、たたむ技術の進化のほかにも、注目点が多い。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/