慶大、次世代交通システム構築へ意欲 超高速鉄道のライバル「ハイパーループ」
リニア中央新幹線に代表される超高速鉄道のライバルとなる可能性がある「ハイパーループ」。米宇宙ベンチャー、スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が2013年に提唱した次世代交通システムだ。早期実現を目指して15年に始まった学生向け技術コンペに、日本から唯一、慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の学生が参加。米国時間の27日、米ロサンゼルスで開かれる2次コンペに向けて準備を進めている。
低コストで車体開発
スペースXが世界中の大学生を対象にした技術コンペ「ハイパーループ・ポッド・コンペティション」には、約120チームが参加。16年1月の1次審査「デザインステージ」を通過したのは「日本は慶大SDMだけだった」(狼嘉彰顧問)。この時点で絞り込まれたチームを含め、今年1月にロサンゼルス国際空港近くで開かれた1次コンペは約30チームが競い合った。
慶大SDMが開発したポッド(車体)は、全長1メートル、重さ24キロ。常温の永久磁石を使い、極低温の超電導磁石よりも低コスト化した。コンペで敷設されるレールはアルミニウム製で、リニアのような電磁石のコイルはない。そこで家庭用電力計の金属板が回転する渦電流の仕組みで、ポッドを浮上させた。
渦電流はアルミのように電気は通すが磁化されない金属板の近くで、磁場を変化させると、金属表面近くに電流が流れる現象だ。ポッドには4つの磁石を入れた回転体を取り付ける。回転する磁石が金属製レールに渦電流を起こして磁場ができ、ポッドの磁石と反発し合って浮き上がる。出発時に推進力を得るときや、途中の加速・減速時だけリニアモーターを使う。
1次コンペでは直径約1.5メートル、長さ1.6キロのトンネルが敷設され、その中をポッドが走った。他チームは重さ200キロを超えるポッドもあったが、慶大SDM製は大人2人で楽に運べた。審査の合間にはマスクCEOが慶大SDMのブースを訪ね「とてもきれいにできている」と語ったという。
10位入賞を果たすが主催者が提供した加速装置の不具合などから、今月27日に同じ場所での再レース(2次コンペ)が決まった。そこに救いの手を差し出したのが、再生エネルギー関連の電気工事会社などを傘下に置くジー・スリーホールディングス(G3)だ。
クリーンエネ実現
G3はポッド改修に必要な資材を提供、チームの求めに応じて取引先から技術に精通した人材を引き合わせた。G3の奥田泰司社長兼CEOは「日本の技術をもって世界に通用するクリーンエネルギーの新しい乗り物を開発したい」と2次コンペ後も共同開発を続ける考えだ。
慶応SDMの西村秀和教授は「日々の研究の成果と価値を社会に還元すべく、将来の交通を担えるような新たなシステムを構築したい」と意欲を語った。
高層ビル群を縫うように敷設されたチューブ状のトンネルを乗り物が走る-。数十年前のSFの世界が、日本の技術で実現するかもしれない。
◇
【用語解説】ハイパーループ
イーロン・マスク氏が提唱した次世代交通システム。鉄製のチューブ状トンネル内を100分の1気圧まで減圧した真空状態にして磁力でポッド(車体)を浮上。リニアモーターで加減速し、最高速度時速1200キロを目指す。昨年12月にトンネル掘削会社が設立、ロサンゼルス市内でトンネル掘削の準備が始まった。
関連記事