EV市場、オセロゲームの世界に 自動車“大航海時代”近づく

マネジメント新時代
充電ステーションで充電中の電気自動車=中国・北京(AP)

 □日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 ここ1~2カ月、電気自動車(EV)に関する話題が多くなってきた。フランスが2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売禁止を打ち出せば、それに呼応するかのように英国も同年までのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止を打ち出す。また、自動車メーカーのボルボは19年以降、新車は電動車両に特化すると発表。直近では、米テスラが大規模な量産タイプEVである「モデル3」をリリースした。まさにEVに関する強風が吹いているとも言える。それに比べ、日本政府および日系自動車メーカーはこれらに反応するでもなく、まるで何もなかったように静観、海でいえば“凪(なぎ)”のように静かである。

 米欧は強風も日本は凪

 仏英によるガソリン車・ディーゼル車の販売廃止の動きは燎原の火のごとく周辺各国に波及し、20年までにはオセロゲームのように、欧州一体がガソリン車・ディーゼル車廃止の動きに統一されるのではないだろうか。欧州は国境の移動が自由であり、仏英が打ち出せば、その周辺を通過する中小の国々はおのずと同じ対応をするであろう。また、中小の国々は自国に自動車産業を抱えるところが少なく、法規への適合も比較的容易である。最終的には欧州連合(EU)規則や指令の形で網がかけられても不思議ではない。

 また、16年に新エネ車(EV、PHEV)を最も多く販売した中国では、同年に打ち出した企業平均燃費規制(CAFC)と連動したNEV(New Electrical Vehicle)規制を、当初の20年から18年実施予定へと前倒しした。現在、導入を1年遅らせるか検討中だが、達成できなければペナルティーを受けるか、他社からクレジットを購入するなど対策せねばならない。日米欧の自動車メーカーにとっては大きな痛手となろう。

 このように世界各国での法規制、ガソリン車・ディーゼル車廃止などの動きが加速する中、日系自動車メーカーが対応方法や長期戦略を打ち出さないため、ジレンマを抱えているのが日系自動車部品メーカーだ。廃止となれば、エンジン、燃料タンク、マフラーなどガソリン車特有の部品はいずれなくなる。

 本件については、筆者にも数多く相談が寄せられるが、次のように話している。

 これまで、系列システムなどで仕事が守られてきたが、日本の動きが世界から取り残されつつある中、日系自動車メーカーの言うことを聞き過ぎるのではなく、いよいよ自力で新たな部品、もしくは自動車産業以外に道をつける時期に来ているのではないか-。

 収益源失う可能性も

 欧州でのガソリン車・ディーゼル車廃止の動きはやがて、日系自動車メーカーの収益源となっているASEAN(東南アジア諸国連合)地域にも波及する可能性も見据えるべきだ。

 タイのバンコク、ベトナムのハノイ、インドネシアのジャカルタなど大気汚染がひどい地域は多く、各国はかなりの影響が出ることは自覚しながらも、規制強化に動くように思われる。その際、これまで日系自動車メーカーが優位に進めてきた地域に対し、欧米中はEV・PHEVを武器に、一気にシェアを奪おうと考えることはありえる。まさに、オセロゲームのASEAN版である。

 もし、各地で攻め込まれると、欧州、中国、ASEANという収益源がなくなり、経営的に厳しい状況に陥る。もちろん、日系自動車メーカーだけでなく、日系自動車部品メーカーも同様である。

 オセロゲームの必勝法は、隅を押さえ、確定石(二度とひっくり返されることのない石)を増やすことだと言われている。これに従えば、どこが隅であり、どうやって確定石を押さえるのかなど、戦略が重要になってくる。自動車産業のこれまでの系列方式は次第に終焉(しゅうえん)を迎え、日系自動車メーカー、日系自動車部品メーカーとも、従来とは異なる考えで、どこにどうやって出ていくのか。

 まさに大航海時代が近づいてきている。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。61歳。福井県出身。