M&Aの鍵「モチベーションファクター」

高論卓説

 ■士気向上に相手の意欲分析が効果

 M&A(企業の合併・買収)をした会社同士や、組織再編をした部門同士の対立が解消しない。経営統合を支援する「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)コンサルタント」として活動していると、形式的な制度統合はできても、買収会社と被買収会社のメンバーが、目指す方向や仕事の進め方の収束ができていないため、組織力が発揮できていない状況に直面することが極めて多い。

 結局、被買収会社のメンバーが社外流出し、M&Aの目的が果たせないどころか、M&Aをしなかった方がよかったのではないかという本音が鬱積している。組織間の隔たりが大きいほど組織一体化の難易度は増す。財務部と経理部、財務経理部と経営企画部、本社と子会社、企業同士の順に、組織間の隔たりは大きい。

 では、組織間の隔たりを解消する最もコア(核)な要素は何か。それが分かれば、その要素に働きかけて、組織間の隔たりを解消しやすくすることができる。身に付けたいスキルをパーツ分解し、「コアスキル」を反復演習する「分解スキル反復演習型能力開発プログラム」を開発して普及させているが、同じアプローチの仕方で、M&Aや組織再編をした組織の隔たりを解消している。

 最も効果が高いのは、相手の「モチベーションファクター(意欲を高める要素)」に働きかける方法だ。私はモチベーションファクターを(1)目標達成(2)自律裁量(3)地位権限(4)他者協調(5)安定保障(6)公私調和-の6つに分けている。プログラムに参加した人の演習結果をみると、良しあしではなく、財務部と経理部のメンバーには安定保障、公私調和という要素にモチベーションが上がりやすい人が大半だ。経営企画のメンバーには自律裁量という要素にやる気が左右されやすい人が多い。子会社は、業務内容によって、メンバーのモチベーションファクターの分布は異なる。

 これが、M&Aに直面した買収会社と被買収会社となると、大きく異なる。同業種のM&Aであれば、中にはモチベーションファクターの分布は似ているケースもあるが、ほとんどのケースで、モチベーションファクターの分布には隔たりがある。

 何によってモチベーションが上がるかという要素が異なる集団なので、買収会社では通じていたコミュニケーションの仕方が通用しないのだ。組織統合が進まない原因は、この相手のモチベーションファクターを踏まえたマネジメントやコミュニケーションができていない点にある。従って、組織再編した相手方、協働する子会社、M&Aの相手企業のメンバーのモチベーションファクターをてこにして、マネジメントやコミュニケーションを進めることができれば、格段に組織統合は進み、対立は解消していく。

 長い時間かけて、100項目近い設問に答えて組織のタイプを診断するツールはたくさんある。しかし、3分間で個々のモチベーションファクターを見極めて、2時間で相手のモチベーションファクターを踏まえたマネジメントやコミュニケーションの仕方を体得するプログラムを開発し、効果をもたらしている。診断することが目的ではなく、診断したモチベーションファクターをてこに変革を実現していくことが目的だからだ。組織は個々の人の積み上げなので、制度を変えても組織統合は実現しない。

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【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年8月にモチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に「チームを動かすファシリテーションのドリル」(扶桑社)。55歳。長野県出身。