世の中を変えるアート的なモノ AI時代に必須、ビジネスの主戦場

高論卓説

 アートによる人材開発に取り組んでいるユニークな会社がある。ホワイトシップ(東京都港区)だ。経営陣の一人でアーティストの谷澤邦彦氏が行うその手法とは、アートを鑑賞し、その感想を参加者が相互にぶつけ合い、その後、自分でも絵を描いて、それをまた参加者全員で評価し合うという「EGAKU」とタイトルされたプログラムだ。

 その一連の作業の中で、各人が眠っている創造性や自己解放に効果を感じることから、普通の社会人が多く集まるという。そもそも子供たちの情操教育としてスタートさせたプログラムというが、一流企業のビジネスマンたちが、美術学校としてではなく、こぞって自らの能力を高めようと集まってくるそうである。

 アート的なアプローチにより、たがにはめられた自分の感性や能力を取り戻そうという意識改革の一環である。

 その改革への意識とは何か。世はイノベーション希求の時代で、何か新しいモノ、世の中にインパクトを与えるモノ、他社と違うモノ、革新的な技術に裏打ちされた優れたモノが求められる。その企業欲求に応えようとするビジネス意識ではないだろうか。

 彼らが求められる状況にはいくつかの背景がある。まず、技術開発が成熟してきた現在、なかなか画期的な商品やサービスを生み出せないこと。第2に、新しい商品を開発してもすぐに同業や異業種他社に追従されてしまうこと。第3に、技術が進みすぎて、新しいものがすぐ色あせてしまうこと。それらは、時代の成熟さを表していると同時に、私が「ヒット学」で定めた「差別化ユニーク」というヒット要因のキーワードを生み出すことが、今はなかなか困難になってきていることを表している。

 かたや人工知能(AI)時代の扉が開こうとしている今、コンピューターによる情報処理能力が定量・定性データ集積の飛躍的な拡大とともに、人の仕事を奪う可能性も指摘されている。

 要は、コンピューターでできることは、コンピューターの方が優位性を発揮するので、人間は人間にしかできないことにシフトするしかないということである。

 これらの状況の1つの解が“アート”なのではないだろうか。人間にしかできないモノで人間に多大な影響を与えるアート。それらを生み出す人間の能力とは、創造性である。その創造性こそが、イノベーションの時代、AIの時代に、人や企業が生き残るキーワードとなる。

 神からの脱却と人間の復興がルネサンスであった。産業革命後に起こったフラワームーブメントを第2のルネサンスとすると、デジタル産業革命後のまさに今、第3のルネサンスが起きようとしている。

 人類のこれからの必須のアートは、AI時代だからこそビジネスの主戦場になる。世の中を変えるのは、アーティストであり、アート的なモノである。

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【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。60歳。富山県出身。