治験・臨床研究のペーパーレス化に一役 アガサ・鎌倉千恵美社長
パソコンやスマートフォンなどの普及でペーパーレス化が進む中、薬の安全性や有効性を調べる治験や医学の発展のため患者を対象に実施する臨床研究では依然、紙を原本として作成し、保管することが一般的となっている。こうした書類をクラウドサービスで管理し、治験・臨床研究のペーパーレス化の進展の一端を担っているのがアガサだ。
◆事務に忙殺
治験・臨床研究で作成される文書の量は膨大だ。その量は1つの試験で100~500種類、数千~数万件とされ、国内だけでも年間10億枚に達する。試験終了後も、最低3年~数十年の保管が必要とされ、病院などの医療機関は文書の保管スペースの確保に頭を痛めている。さらに、その紙を印刷したり、コピーしたり、製薬会社に送る事務作業なども膨大で、医師や研究者らは日々、研究よりも事務処理に多くの時間を費やしている。アガサの鎌倉千恵美社長は「ITの活用で、事務作業を軽減したい」と力を込める。
鎌倉社長は大学院を修了後、公務員として働いていた。しかし「決められたことをやるのではなく、新しいサービスを提供するような仕事がしたい」とわずか4年で役人の生活に見切りをつけた。
独立を強く意識したのは、製薬企業向け文書管理システムを提供する米ネクストドックスの日本支社長として働いていたときだった。文書管理システムを提供するIT企業は複数あった。しかし、システムの導入コストは1000万円以上、年間の運用費用は数百万円以上が必要とされていた。このため、導入できるのは一部の製薬会社に限られた。約3000件とされる国内の病院など医療機関の多くが導入に二の足を踏んでいる現状を目の当たりにした鎌倉社長は「ストレージを活用すれば導入コストは飛躍的に下がる。そうすれば潜在需要を掘り起こせるはずだ」とみていた。
ちょうどそのとき、働いていた米国企業が買収され、日本支社が閉鎖されることになった。鎌倉社長は「神様が独立しろと背中を押してくれたような気がした」と失業の危機をチャンスに捉え、思い切って独立に踏み切った。
導入・活用費用が月額最低415円からという低価格やシステムの使いやすさなどが受け、現在は大阪大学や北海道大学、筑波大学、信州大学など25件の医療機関を顧客に抱える。
◆海外進出も
アガサが注力するのは国内市場だけではない。5月には米国、欧州、アジアで治験・臨床研究向け文書管理クラウドサービスの提供を開始、2018年12月期の黒字化を目指す。
忙しい日々を送る鎌倉社長の息抜きはランニングだ。休日は1日に15~20キロ走る。「ストレス発散はランニングに限ります」と笑う。健康維持のために始めたが、走ることの楽しさに目覚め、フルマラソンにもチャレンジ。これまでに5回完走した。ベストタイムは3時間58分で、多くの市民ランナーが目標とする「サブ4」(4時間以内)を達成済みだ。次なる目標は「自己ベストの更新です」と意欲を燃やす。
◇
【プロフィル】鎌倉千恵美
かまくら・ちえみ 名工大大学院修了。1998年総務省入省。2001年日立製作所入社。製薬・医療機関向け新事業企画、システムエンジニアなどに携わる。07年米ライス大経営学修士(MBA)。11年米ネクストドックス日本支社長を経て、15年10月アガサを設立し、現職。43歳。愛知県出身。
◇
【会社概要】アガサ
▽本社=東京都中央区日本橋箱崎町1-2 FtFビル2階
▽設立=2015年10月
▽資本金=8300万円
▽売上高=約1億円(17年12月期見込み)
▽事業内容=治験・臨床研究の文書やコンテンツを管理するサービスの開発と運営
関連記事