郷里・高知の地方創生

ビジネスアイコラム

 ■創意工夫支援、全国への流通網開拓

 お盆休みでは、郷里の高知県で地方創生の現場をいくつか訪ねてみた。

 四国山脈の奥深く、吉野川の谷合いにある長岡郡大豊町では、獣がのさばり、鹿による食害で山は荒れ、果樹は実ったところで猿に食べられる。わが物顔に徘徊(はいかい)するのはイノシシで、高齢者を脅かす。そんな地元で高まっているのは「ジビエ」熱だ。ジビエはフランス語で、狩りで獲った野生鳥獣の食肉のことで、欧州では貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化を表す。

 地元の人々はジビエに着目し、わなで鹿やイノシシをとらえ、高級食材にするプロジェクトの検討を進めている。人の口に合わせるためには、捕獲後の処理、保存に工夫が必要で、設備にカネがかかる。需要元はジビエ料理店だが、地元周辺で数は限られるし、新鮮な食材を大都市まで届ける流通ルート開拓には時間がかかる。野生相手だから、まとまった量を安定供給できるかどうか、不安が残る。

 そんな折、地元関係者が殺菌処理しただけの鹿肉を飼い犬に与えてみたところ、むしゃぶりつく。老犬の毛並みはつやつやになり、市販のペットフードで肥満気味だった若い犬たちは引き締まり、駆け回る。そこで、地元で年金生活を過ごす小森将義さん(70)は一念発起して、起業を決意した。犬用ジビエを製品化し、全国に売り出す計画で、工場を建てる。「最初は2、3人しか雇えないが、地元に若者の雇用の場をつくれる」と小森さんは張り切っている。ペット用だと、ヒト用と違って鹿肉の処理は簡便で、殺菌と乾燥用の設備投資で済む。あとは全国での販売網を開拓し、ブランドを確立させると、規模拡大できる。

 過疎のために山間部は獣たちの世界に回帰しつつあり、日本の衰退を象徴するのだが、発想を変えれば、自然はビジネス機会の宝庫になりうるのだ。

 もう一つ、場所は「仁淀ブルー」で知られる仁淀川沿いの吾川郡いの町。高知県産の地鶏、「土佐ジロー」の養鶏家、西雅志さん(56)は人里から離れた山中で地鶏を放し飼いにしている。南国の太陽の下、草木に囲まれた広い地面を翔け回る鶏たちから、遺伝子組み換え飼料を一切使わない高級卵が産み落とされるのだが、悩みは獣や蛇による被害だ。

 そこで、愛猫家の西さんは野良猫たち20匹を引き取って、放し飼い場周辺に解き放ってみた。野良たちは居着いた。西さんが餌を与えてくれるばかりではない。好物のネズミ、さらにマムシも喜んで捕獲する。キツネ、テンなど鶏の天敵にも飛びかかる。おかげで、飼育場近くではマムシがいなくなり、果樹や作物を食い荒らす獣は来なくなったので、近隣の農園も猫たちに拍手喝采だ。鶏飼育の手間が省けた西さんは、養鶏場の拡張ばかりでなく、土佐ジロー卵を使ったクッキーなど、事業の多角化に挑戦している。猫の野生本能をうまく利用し、生産性を上げるというわけだが、自然環境がもたらす自然の摂理に従ったまでだ。

 高知県は全国でも最悪水準の人口減少県であり、少子高齢化は急速だ。多くの経済学者は人口減を日本経済停滞の要因として挙げ、政府・日銀の官庁エコノミストは日本の潜在成長率を1%未満と決めつけている。しかし、5年間で5%近く人口が減り続ける高知県の県内総生産実質伸び率は2011年以来、人口減が1%未満の日本全国の実質成長率よりも高く、14年は5年前比で8.3%だ。

 公共投資の寄与度は大きいが、基本的には農業生産が着実に増えている。中央官僚が「地方創生」の作文をいくら書いたところで、空疎だ。まずは多種多様な地元の挑戦者たちの創意工夫を盛り立てる。そして、生産物を全国ネットの流通ルートに乗せれば、地方は成長力を発揮できるはずだ。(産経新聞特別記者 田村秀男)