介護現場に「IoT」の波 スタッフ負担軽減、離職防止に

 
尿量から排泄のタイミングを知らせるディーフリーを装着したところ(SOMPOケアネクスト提供)

 高齢時代を迎え需要が高まるばかりの介護施設や老人ホーム。こうした施設で今、あらゆるモノがインターネットにつながるモノのインターネット(IoT)など最新のIT活用が広がっている。センサーで危険性を検知するといった入所者の安全第一を主眼にしたシステムだが、介護スタッフの負担軽減の側面もある。

 入所者を360度見守り

 SOMPOホールディングス傘下で介護事業を手がけるSOMPOケアネクスト。介護付き有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ」に4月から着々と導入が進むのはIoTを使った自慢のシステムだ。

 排尿センサー▽浴室見守りセンサー▽居室見守りセンサー-という3種類のセンサーを使い分け、入所者を360度見守る。中でもベンチャーのトリプル・ダブリュー・ジャパン(東京)が開発した排尿センサー「ディーフリー」は、要介護者の排尿のタイミングをずばり予知する画期的な機器だ。

 ディーフリーは、超音波センサーを膀胱(ぼうこう)付近の下腹部に貼る。エコー診断と同じ要領でセンサーが膀胱内にたまった尿の量を測定。その量が膀胱いっぱいに近ければ10分後に排尿のタイミングが来る-との通知をネット回線を通じスタッフ側のタブレットに送り、排泄(はいせつ)介助につなげる流れだ。

 こうした機器が必要とされるのは、認知症などで意思疎通が難しい要介護者だ。失禁による不快感を我慢できず自力でオムツをずらしたりして、尿漏れで衣類や布団などが汚れることもある。昼夜を問わないため介護スタッフの負担が増しがちだ。

 同社の担当者は「機器を使えば排尿のタイミングがあらかじめ分かりスタッフの排泄介助に失敗がない。オムツ使用数は約35%程度削減された。肌も清潔に保たれ感染症も減った」と胸を張る。そして、「何よりスタッフの排泄介助の回数が約3割減少した」と効果を語った。

 機器利用の背景にあるのは、介護職員の離職率の高さだ。

 公益財団法人「介護労働安定センター」が行った調査(回答事業所数は6525施設)では、2015年10月からの1年間に全国の介護職員の16.7%が退職。全産業平均の15%(16年)を上回った。仕事の負担感が強く、離職者が目立つ職場環境では、「スタッフが頻繁に入れ替わって介護レベルが下がりかねない。水準維持のためにもITの力を借りることにした」と担当者はいう。

 排尿センサーのほか、同老人ホームでは天井のセンサーで体動を把握し、入所者がまったく動かないといった異常を検知すれば、スタッフのPHSに連絡が入る「浴室見守りシステム」を導入。また「居室見守りシステム」は5つのセンサーをベッドやドアに設置。体動や脈拍、呼吸を常時監視する。

 担当者は「(IT化で)残業が減るなど職場環境の改善が離職防止にもつながる。新人の採用や育成のコストなどを考えれば4、5年で投資分の回収は見込める」と語った。

 電機各社が続々参入

 電機各社は、こうしたIoT活用の見守りサービスに続々参入する。富士通は4月から横浜市住宅供給公社の賃貸物件で実証実験を進めている。

 居室の異音に注目する「見守りソリューション」は、「リモートケアベース」と呼ばれる装置を使い、集音データをネット回線を通じてクラウド(ネット上のサーバー)に送信する。転倒などの際に出る大きな異常音などを検知すれば、看護師常駐のコールセンターへ連絡が入る仕組みだ。富士通などは10月末まで実証実験を続け、その後、本格導入につなげる。

 一方、パナソニックはサービス付き高齢社住宅(サ高住)などで、室内のエアコンの稼働状況とルームセンサーでとらえた人の動きのデータを集める。スタッフ側では、不在時間が長すぎるなどの異常を把握できるようにした。IoTを使えば目が届かないところにも目配りが可能になり、安全確保にもスタッフの省力化にも寄与しそうだ。(柳原一哉)