脱サラし起業 「健康管理のインフラ」に
リーダーの素顔□バリューHR社長・藤田美智雄さん
企業の健康保険組合の設立・運営支援のほか、組合員向け健康管理サービスの提供を手掛ける。サラリーマン時代、公認会計士らが加入する健保組合の設立を依頼されたのをきっかけに会社を立ち上げた。人手不足や医療費の増大が社会問題化する中、従業員の健康管理や予防医療の重要性は増している。「世の中に必要とされることをやる」との思いを胸に、「健康管理のインフラ」を目指す。
--もともとはサラリーマン
「大学を卒業して外資系会計事務所の人事部に採用されました。採用と研修、人事評価を中心に仕事をしていましたが、ヘッドハンティングされて外資系の証券会社に移りました。そこで4年働いた後、青山監査法人(現PwCあらた監査法人)に転職し、人事部長兼人事コンサルタントとして二足のわらじで仕事をしていました」
--41歳のときに独立して会社を設立した
「当時、公認会計士が加入する健保組合を作れないかという声が業界で出ていて、たまたま私が健保組合の分割を手伝った経験があったので試算を依頼されました。結果的に業界の健保組合は延期になったのですが、ある監査法人から自前の健保組合を作りたいと依頼がありました」
「実は、上司はビジネスとしてやる気がなかった。私が行政機関との調整や資料作りなどをやっているうち、健保組合の設立認可が下りることになりました。その監査法人に『健保組合を作ることはできるけど、その後のサポートはできません。必要なら私が独立してやります』と伝えると、『ぜひやってくれ』と言われ、会社設立を決めました」
--安定したサラリーマンをやめ、起業することに抵抗はなかったのか
「世の中に必要なことは、ビジネスになると思っていました。健保組合で実際に業務をしていた人など経験者3人を採用し、4人で会社を立ち上げました。企業などの健保組合の設立を請け負う一方、既存の健保組合の福利厚生事業の受託も手掛けています。健保組合の事務局や企業は管理運営を効率化してコストを削減できる上、利用者も福利厚生サービスの選択肢が増えるなどのメリットがあります」
--今後の事業展開は
「健保組合の設立支援は多いときでも年に6つで、それだけでは企業として成長できません。そこで、既存の健保組合向けのサービスを拡大しています。健保組合に加入している従業員の健康診断を手配したり、結果を電子データ化して個人がマイページでチェックできるようにしたり…」
--過労自殺が社会問題化し、長時間労働を防ごうという動きが活発化している
「企業にとって、従業員の健康管理が重要になっています。当社はストレスチェックや健康診断、保健指導などの仕組みを提供しており、企業の顧客も増えています。当社の目指す『健康管理のインフラ』は、政府が取り組んでいる健康寿命の引き延ばしや医療費の抑制などと合致しています。将来、間違いなく必要になりますし、その入り口に立っていると感じています。病気になれば医者や医療の領域ですが、予防は個人で努力するしかありません。個人が自分の健康情報を把握し、必要な行動に移れるように環境を整えることが使命だと思っています」(田村龍彦)
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【プロフィル】藤田美智雄
ふじた・みちお 国際商科大(現東京国際大)商学部卒、アーサー・アンダーセン会計事務所(現あずさ監査法人)入社。外資系証券会社などを経て、2001年7月にバリューHRを設立。16年12月に東証1部に上場し、現職。57歳。青森県弘前市出身。
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≪DATA≫
【心理学】大学時代、心理学研究会に所属していた。入会動機は「付き合っているときは優しいのに、別れた途端に冷たくなる女性の心理が知りたかったからです」。カウンセリングや心理分析を通じ、中立的なスタンスで相手の話を聞く大切さを学んだ。「人間は他人の話を聞くときも自分の思い込みがあるため、歪曲(わいきょく)してしまう。ビジネスでも役立っています」
【趣味】休日の楽しみはゴルフ。年間のラウンド数は約50回で「スコアはかろうじて90台」。プレー中に同じ状況になることは二度となく、努力しても終わりがないため、「人生や仕事に似ています」。
【仕事のモットー】小学生の頃から将来、自分でビジネスをやりたいと思っていた。父親も実業家だったが、「もうかるから」とさまざまな事業に手を出していた。その姿を見て、「お金もうけをしようと思って、ビジネスをやったら駄目だという意識がありました」。運転資金を銀行から借り入れることはしないと決め、堅実な経営を行っている。
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