カジノを含めた外国人観光客誘致

遊技産業の視点 Weekly View

 □シークエンス取締役、LOGOSインテリジェンスフェロー・木村和史

 マレーシアの首都、クアラルンプールは、マレー半島の南部に位置し、近年は東南アジアを代表する近代都市として発展を遂げている。そんなクアラルンプールから車で北へ1時間ほど走った標高1700メートルの高原に、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)「ゲンティン・ハイランド」がある。同施設は「マレーシアのラスベガス」と呼ばれ、五つ星ホテルを含む6つのホテル、ゴルフ場、テーマパーク、国際会議場などと、マレーシアでは唯一の政府公認カジノ「カジノ・デ・ゲンティン」で構成されている。

 マレーシアでは1953年に一般賭博施設法が成立した。これによると賭博行為は厳格な取り締まりの対象ではあるが、政府が認める賭博施設に限りマレーシア人も外国人も、その入場が認められており、行政もハンドリングの余地を残していた。そんな中、華僑を創業者とするレジャー企業のゲンティン・グループが前述の大型リゾート施設を建設中に、財務省より同施設に対しゲーミングカジノの免許を特例的に与えることが決まった。これによりゲンティン・ハイランドはIRとして1971年にオープンするのだが、その後、マレーシアでは永きにわたりカジノ施設の許可は下りていない。

 マレーシアも日本と同様、国策として積極的な外国人観光客の誘致(インバウンド)に取り組んでおり、2016年の外国人観光客は2675万人とアジアでは3番目に多い。しかし、日本のように、そのアイテムの一つとしてのカジノを含めたIR誘致推進の声は聞かれない。豊かな自然や地形を体験できるもの、多民族文化に触れ合えるものなど、その誘致手法はさまざまであり、極端な話、一部の巨大施設に外国人を封じ込めるようなものは志向していない。つまりカジノ立国のマカオや時間潰しの空港カジノではなく、訪問してくれた外国人に、自国の魅力を余すところなく体感してもらうことを観光としている。そもそも観光とはどういうものなのか。その観点に立つと、マレーシアは観光客誘致の原点を理解し自国の魅力をよく認識していると感じる。日本の観光政策も「開発」以前に、“観光の原点”を忘れてはならないだろう。

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【プロフィル】木村和史

 きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のリポート執筆なども手掛ける。