日立、海外鉄道の足場固め 生産効率化とIoT活用急務、M&Aも検討

 
日立製作所の鉄道車両の生産拠点、ピストイア工場=17日、イタリア・ピストイア(共同)

 日立製作所が海外の鉄道事業の足場固めを急いでいる。約2年前に買収したイタリアの生産拠点の効率化に取り組むほか、さまざまな機器をインターネットにつなぐモノのインターネット(IoT)を活用してシステムを充実。再編が進む世界の鉄道車両市場でライバルに対抗するため、M&A(企業の合併・買収)も検討している。

 「買収時は心配していたが、生産性が高まっている」。東原敏昭社長は18日、2015年11月に子会社化した日立レールイタリアをこう評した。同社の車両生産台数は日立全体の約4割を担う。

 イタリア最大の拠点であるフィレンツェ近郊のピストイア工場は29万平方メートルの広大な敷地で、高速鉄道や地下鉄の車両を月40両造る。日立は組み立ての際にゆがみが少なく、溶接個所が見えにくい手法といった日本で培った技術を順次導入する予定だ。

 運行管理にも注力している。駅に設置したセンサーで乗客数を分析し、増減に応じて運行本数を自動で決めるシステムを開発。デンマークで実証実験を始めた。同じく買収した信号システムを手掛けるイタリアのアンサルドSTSの制御技術にIoTを融合した。

 それでもライバルの背中は遠い。ドイツのシーメンスとフランスのアルストムが9月に鉄道車両事業の統合で基本合意。売上高153億ユーロ(約2兆円)の世界2位メーカーが誕生する。車両の製造、販売だけでは「利益率が低い」(業界関係者)ため、規模拡大によりコスト削減を狙う。

 世界首位の中国中車の売上高は2241億元(約3兆8000億円)。中国政府の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を追い風に、海外市場に積極的に打って出る方針だ。

 ライバルの動きに東原氏は「非常に脅威だ」と危機感を隠さない。日立は鉄道事業の売り上げ規模を20年代前半に1兆円に引き上げる目標を掲げている。16年度から倍増させる必要があり、東原氏は「グローバルな視点でM&Aやアライアンス(提携)を考えていく」と公言する。

 候補としてはカナダのボンバルディアなどが想定されるが、「巨大メーカーとの協業は難しい」(日立関係者)。日立の鉄道事業は、英国での好調な受注を背景に当面は堅調に推移する見通しだが、世界市場で戦うための体制構築に残された時間は少ない。(ピストイア 共同)