風力発電由来の水素でCO2フリー
eco最前線を聞く□豊田通商新規事業開発部 低炭素社会推進グループリーダー・鈴木来晃氏
豊田通商は、11月下旬から風力発電で起こした電気から水素をつくり、貯蔵・輸送し、北海道苫前町の公衆浴場のボイラーの燃料として利用する実証試験に乗り出す。地球温暖化防止に向けて、水素社会の実現が求められ、政府も基本戦略を年内にも策定し、2020年ごろまでに約4万台の燃料電池車(FCV)と、対応する水素ステーションの整備を進める計画だ。こうした中で豊田通商の新規事業開発部低炭素社会推進グループの鈴木来晃グループリーダーは「化石燃料由来ではなく、再生可能エネルギー由来の水素を使って二酸化炭素(CO2)フリーの社会を実現したい」と、究極のエコを目標に掲げている。
◆町営の入浴施設に活用
--実証試験の仕組みは
「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や川崎重工業など7者で11月下旬から苫前町の町営風力発電所(風車3基)でつくった余剰電力から水電解装置を使って分解して水素を製造・輸送し、町営の入浴施設の燃料に活用します。水素はトルエンと反応させ、メチルシクロヘキサン(MCH)と呼ばれる常温常圧で貯蔵できる液体に転換し、これを10キロ離れた入浴施設に輸送します。そこで、水素とトルエンを分離させ、水素をプロパンガスと混合しボイラー燃料に使い、お風呂の湯を沸かす仕組みです。トルエンは発電所に戻して再利用しますが、灯油よりは割高なのでコスト面が課題です」
--水素事業への取り組みは
「2014年に販売したトヨタ自動車のFCV「ミライ」開発の本格化に伴い、社内の議論も深まり、水素製造から貯蔵、輸送、利用のサプライチェーンの構築の中で何を優先するか模索しました。トヨタからは水素ステーションのインフラ整備の役割が期待され、そこから着手しました。12年に川崎重工業やテクノバなどが立ち上げた水素を活用した低炭素社会を考える「HyGrid(ハイグリッド)研究会」にも参画しました。CO2排出をできるだけゼロに近づける、CO2フリーやエネルギーの地産地消の重要性が活発に議論され、ようやく再生エネ由来の水素事業の実証試験にこぎ着けました。北海道苫前町は森利男町長自身が同町の担当課長として、自治体初の風力発電を稼働させた経緯があり、全国有数の風力発電の旗振り役としても知られており、思惑が一致しました」
◆化石燃料は効果限定的
--なぜ、再生エネ由来の水素をつくるのか
「FCVはガソリン車と違い、走行中にCO2は排出しませんが、化石燃料から水素を取り出したのでは、CO2削減効果は限定的だからです。一方で水素は、再生エネの電力を有効活用する手段としての期待が高まっています。再生エネを拡大するネックになるのが、出力の変動が既存の系統に悪影響を及ぼすことがあげられます。余剰電力を水素に転換し、貯蔵・輸送できれば、水素が課題解決策となる可能性があります」
--具体的には
「今の風力発電の多くは、固定価格買取制度(FIT)を機に建設されています。導入後20年は売電が保証されますが、裏を返せば2030年頃にこの保証期間が切れる発電設備が大量発生します。大量の余剰電力を水素に変えて販売できれば、売電と水素販売の両輪で、風力発電事業の収益安定にも貢献できます。グループで風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールディングの強みも生かせます」
--福岡市では下水汚泥から出るバイオガス由来の水素をFCVに供給している
福岡市や九州大、三菱化工機などと共同で、下水汚泥を発酵させて発生したバイオガスからCO2を除去し、メタンガスと水蒸気を反応させ水素を作り、FCVに充填(じゅうてん)しています。今は自主研究ですが、下水を持つ世界中の自治体から注目されています。バイオガスは未利用も多く、有効活用につなげたい。トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)の工場内では福岡県や九電テクノシステムズなどと太陽光発電を利用した水素製造にも取り組んでいる。政府の補助金を受け、貯蔵や輸送、供給、燃料電池フォークリフト向けの充填まで一環システムの運用を開始しました。トヨタは50年までに工場からのCO2排出をゼロにする目標を掲げ、その実現に向け水素は重要な役割を担っています」(上原すみ子)
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【プロフィル】鈴木来晃
すずき・らいこう 明大政経卒、1998年加商(現豊田通商)入社。化学品ゴム関連事業に従事。2009年再生可能エネルギーや蓄電池を活用した分散型エネルギー事業、リチウムイオン電池事業を担当。11~12年に宮城県大衡村のスマートコミュニティー「F-グリッド事業」立ち上げに参画。15年から水素関連事業を担当し、16年4月から現職。43歳。埼玉県出身。
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