良い音を追求“かんぴょうスピーカー” サウンドテック高橋電機の発想
栃木発 輝く■天然素材、心地良い響き
まんまるの顔に丸い大きな目玉が2つ。日本を代表するファンタジーなアニメの登場キャラクターか、ゆるキャラのような姿が印象的なのは、栃木県小山市のオーディオ専門店「サウンドテック高橋電機」が開発したスピーカー「fucucchi(フクッチ)」だ。
ユウガオの実を乾燥
“インスタ映え”する造形はユウガオの実「ふくべ」そのもの。ユウガオは、栃木県が全国の生産量の9割以上を占めるかんぴょうの原料で、畑で採れた“かんぴょうスピーカー”だ。
なぜ、ユウガオでスピーカーなのか。高橋昭社長は「ユウガオの実は世界中で楽器に使われてきた」といい、美しい響きが特徴だ。バイオリンの祖先はアラビアの弦楽器、ラバーブで、ヤシの殻とユウガオの実を乾燥させた共鳴箱の表面にヒツジや牛の皮を張ったもの。インドのシタールもユウガオの実で作られていた。
かんぴょう生産農家とともに、スピーカーボックスに適したユウガオを種から育て、収穫したら中身をくり抜いて乾燥させて作る。乾燥には2年もかかり、全て手作り。縦、横、奥行きとも35センチ前後の大きさで重量は1.5キロ前後と軽量だ。
一つ一つ顔が違い、丸い目玉の部分はスピーカーユニット。固定リングには地域の高級絹織物「結城紬(つむぎ)」を使っている。同社の地元、小山市や茨城県結城市などの「本場結城紬」は2010年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。結城紬の帯電しにくい性質は音響にもいい効果があるという。
「良い音を追求することしか考えていない。やはり、天然素材独特の響きがある」と高橋社長。スピーカーは振動板の素材の違いで音色や雰囲気が変わるが、スピーカーの周辺に置く物によっても違いがあり、さまざまな実験で「音を心地良く鳴らすのは天然素材の圧勝だった」という。
創業以来50年近く、カーオーディオを中心に音響に関する事業を展開してきた。車内で音楽を楽しむために、音のこもりを解消する製品などを開発。高橋社長はカーオーディオ業界の発明王とも呼ばれ、音響一筋に取り組んできた。
この仕組みは車だけでなく、さまざまな電子機器に囲まれた職場や家庭、公共の場でも応用できる。音のこもり解消を目的に開発、商品化した音響デバイス「ピュアポイント」なども注目されている。
拡販へHP一新
かんぴょうスピーカーは、13年春に開発を始め、2年後の冬から本格販売を始めた。そして、今年9月、「ブルースターサウンズ」のブランド名を新たに立ち上げ、ホームページを一新。販路拡大を目指す。
「栃木目線で、かんぴょうを前面に出してきたが、県外に向けては違うアピールもある」。形のかわいらしさと、同じ物が一つとしてない個性的なデザインは、これまでになく女性が関心を示してくれているといい、インテリアとしても注目される。
響きの良い音とともに、くつろぎ、癒やし、心地よさを演出する。価格は16万~23万円(税別)。(水野拓昌)
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【会社概要】サウンドテック高橋電機
▽本社=栃木県小山市駅南町3-14-22 ((電)0285・27・2596)
▽設立=1996年1月
▽資本金=1000万円
▽従業員=6人
▽売上高=6473万円(2016年10月期)
▽事業内容=カーオーディオや音響関連機器の開発、販売、取り付け、音響調整など
□高橋昭社長
■国賓に贈れる地域の名産に
--かんぴょうスピーカーを開発したきっかけは
「創業時よりカーオーディオの分野で、よい音を求めてさまざまな取り組みを繰り返す毎日。たどり着いたのは、心地よく音楽を鳴らすには天然素材を用いる以外にはないという確信だ。ユウガオの実や結城紬をスピーカーに活用する原点となる。ユウガオの実のスピーカーはあったが、民芸風やアート的だった。研鑚(けんさん)を積んだ音響のノウハウを融合させたオリジナル製品を創る思いが生まれる。実には個体差があり、やむを得ず取り付けた2つのスピーカーがまるで目のようでかわいいと女性からも反応があった」
--反響も大きくなっている
「全国から注文がある。ドイツや米国でも広めたいという人もいる。ただ一つ一つが手作りで年間300個が限度。きれいな丸い形にするには農家の苦労があってこそ。地面をはってつるが成長するので実は必ず横向きに倒れる。それを毎日毎日起こして形の良いユウガオの実が育つ。こちらが職人技でといっても自然の力があり、種まきから自然乾燥まで3年かかる。農家の方がいて初めてできる」
--今後の展開は
「新たにビジネスパートナーを得て、fucucchi(フクッチ)と名付けた。かんぴょうと言っても栃木以外ではあまり認識がない。新たなブランド名『ブルースターサウンズ』でホームページも新しくした。fucucchiは企業そして、女性もターゲットに。今後は伝統工芸としての逸品もの、国賓に贈れるものにしたい」
--地域貢献も考えているか
「ユウガオの実は底の部分をカットすると皿になる、ハンディキャップがある人の就労施設で作り、色付けしてもらえば商品価値があるものができる。障害者の収入、働きがいにつながる。自治体などと産官学連携で事業化できれば、地域の名産になるのではと考えている」
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【プロフィル】高橋昭
たかはし・あきら 小山高校卒。会社勤めを経て、1969年5月、サウンドテック高橋電機を創業。96年1月に法人化し、社長に。67歳。福岡県出身。
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≪イチ押し!≫
■音のこもり解消「ピュアポイント」
サウンドテック高橋電機は「かんぴょうスピーカー」だけでなく、さまざまな音響に関わる製品を開発してきた。高橋昭社長は経営者であると同時に音響一筋の技術者。カーオーディオ業界の“発明王”とも呼ばれている。
自動車室内の音のこもりを解消する目的で開発したのが、音響デバイス「ピュアポイント」だ。エンジン振動や音を抑制、車内の会話もはっきり聞こえるようになるといい、車だけでなく、オフィスやレストラン、病院など職場や家庭での導入も進んでいる。音を伝える空間の電磁干渉対策を施して音のこもりを解消している。
他にも積水化学京都研究所と共同開発した「レアルシルト」は、シートを貼ることで車内の不要な音を大幅に抑制できる音響環境改善のデッドニング用品だ。
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