【論風】自動車電動化とエネルギー問題 国際市場の形勢一変も
□日本エネルギー経済研究所常務理事・小山堅
先進的・革新的技術の開発と普及は社会や経済のあり方を変化させる。今その関連で最も注目されることの一つが、電気自動車など次世代自動車の急速な普及への期待に関わる問題だ。
今年7月、仏英両国が、2040年から内燃機関自動車(ガソリン車・ディーゼル車)の新車販売禁止を相次いで打ち出し世界を驚かせた。ガソリン・ディーゼル消費を減らし二酸化炭素(CO2)や大気汚染物質の排出抑制を狙う、環境対応への取り組みである。
背景に技術進展や産業育成
これを受けて、世界最大の自動車市場である中国や今後の巨大市場インドでも、同様に内燃機関から先進型自動車へのシフト推進政策が発表された。
自動車産業も取り組みを加速している。19年から新車販売を全て電気自動車、プラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車にすると発表したスウェーデンの大手ボルボのように、各メーカーは自動車電動化を目指す戦略を矢継ぎ早に発表している。
電動化への期待の背景には、自動車用蓄電池性能向上とコスト削減、それに伴う電気自動車の航続距離拡大と販売価格低下など技術の進展・改善もある。また中国のように、次世代自動車を国家戦略の観点で産業育成する動きとそのためのインフラ・制度整備への取り組み実施も影響している。
自動車の将来は経済・産業問題全体の観点から極めて重要だ。同時にエネルギー問題にも重要な意味を持つ。それは自動車用石油需要の伸びが世界の石油需要の将来を左右する要因であり従来は内燃機関に本格的に挑戦する代替・競合技術・エネルギーの存在が認められてこなかったためである。もし電気自動車などが予想を超え急速に普及すれば世界の石油需要の将来を変え、国際エネルギー市場を揺り動かす「ゲームチェンジャー」になり得る。
当研究所の分析では、世界の石油需要は通常の前提では50年まで増加する。一方、電気自動車・燃料電池車などのゼロエミッション車の世界新車販売シェアが今後急拡大し50年に100%になるとの思い切った前提をおくと、世界の石油需要は30年頃にピークを打ち50年には現状並みまで低下する。
世界の石油需要は増加を続ける、というのが長期予測における一種のコンセンサスである。需要増加を満たすため徐々に高コスト石油が必要になる、との考えに基づき、長期的に原油価格は上昇するとの見方も共通している。
石油需要ピークなら多大な影響
仮に石油需要ピークとなれば、上記の前提が崩れ、原油価格は上昇せず、長期的に50~60ドルとなると当研究所は考えた。その場合、需要(販売)低下と油価下落で、50年の中東産油国の石油輸出は基準ケースより1.6兆ドル減、国内総生産(GDP)も13%低下する。需要ピークの可能性を念頭におけば、中東産油国にとって経済構造の多様化・高度化による石油依存体質からの脱却は一層重要性を増す。
現在、石油需要の過半のガソリン・ディーゼルが減少すれば石油製品構成が激変、製油所での生産や原油選択に大きな影響が出る。ガソリンスタンド経営など流通にも多大な影響が出る。
石油需要減少分だけ電力需要が増大し、その増分をどう賄うかも問題だ。発電構成次第だが、仮に石炭火力発電で需要増に対応すればCO2や大気汚染物質排出削減効果は期待し難い。
また、需要ピークといっても50年で現状並み石油需要水準であれば、石油生産維持のため巨額の開発投資が必要である。それを怠れば投資不足で需給逼迫(ひっぱく)、油価高騰から石油離れを加速する原因となり得る。地政学リスクから石油供給危機があっても、自動車電動化推進に拍車が掛かる可能性もある。
現時点では、電動化がどう進むのか、先行きは不透明である。技術そのものにも、関連インフラにもさまざまな課題がある。エネルギー問題にも多大な影響を及ぼす自動車の将来から目は離せない。
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【プロフィル】小山堅
こやま・けん 早大大学院修了。1986年日本エネルギー経済研究所入所。2011年から現職。英ダンディ大学留学、01年博士号取得。専門は国際石油・エネルギー情勢分析など。58歳。長野県出身。
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