【開花した韓国事業 Jトラストの挑戦】(4)「七人の侍」が経営基盤確立
■得意分野生かし日本の成功体験移植
「七人の侍」-。経営破綻した韓国貯蓄銀行を再生させた7人の日本人を、Jトラストの韓国金融グループはこう呼んでいる。規制強化への対応など日本のノンバンク業界で培った貸付営業や債権管理、審査といったノウハウの導入、徹底したコンプライアンス(法令順守)態勢の確立などに躍起になり、コミュニケーションを大事にする韓国文化と融合させながら利益基盤を築きあげた。7人が得意分野に全力を傾けることでグループ間のシナジー効果も生んだ。
「韓国ナンバーワンのサービサー(債権回収会社)を目指す。そのために順法経営を優先したプロ集団に創り上げる」
侍の一人として進出当初から韓国事業にかかわってきた松岡和幸ティーエー資産管理(TAA)代表理事は将来像をこう掲げた。
情に厚い感動回収
2015年からTAAトップとして、日本の消費者金融時代に培った「債権回収は人」という持論を展開。声を荒らげる圧迫中心の回収ではなく、「日本のビジネスモデルである相談中心の情に厚い“感動回収”を取り入れた」(松岡氏)ことが、規制強化によって増加傾向にある売却債権の買い取り強化に役立つとみる。
その右腕として活躍するのが玉木匡理事室部長。松岡氏が目指すナンバーワンサービサーに向け、市場動向を正確にキャッチし着実に債権を買い取り、資産を積み上げていく。二人三脚によりTAAは成長、市場環境が良いときは銀行業で、悪いときは債権回収業で利益を確保できる補完関係を確立した。
松岡氏、玉木氏とも千葉信育Jトラスト専務と一緒に、11年4月のネオラインクレジット貸付(現JT親愛貯蓄銀行)買収時に韓国に行き、金融事業の土台作りに奔走した。同行には現在、総括役を担う江口讓二専務ら4人が籍を置いて利益最大化に奮闘する。
審査本部長、営業本部長を務めた江口氏は15年、会社に対し強硬な態度を取ることで有名は産別労働組合の下部組織として設立された同行労組の圧力と向き合った。刑事告訴・訴訟・ストライキなど2年間に及ぶ労使対立の末、会社側として受け入れ可能な団体協約の締結にこぎ着けた。当初担当していた千葉氏は「労組対応に6割の時間が割かれていた。これを江口氏に任せることでグループ責任者として動けるようになった」と振り返る。
和気伸幸専務は、日本での延滞債権管理業績を改善させた経験とノウハウを生かして同行でも立て直しに尽力した。今はJTグループ4社の延滞債権管理を統括する。小林武志理事は日本と韓国の審査ノウハウの融合に力を発揮。後にグループに加わったJT貯蓄銀行、JTキャピタルの審査技術の高度化にも腕をふるった。
営業オペレーションの確立をミッションに掲げて赴任した本庄浩一郎経営本部長補はJTグループ4社の協力体制・シナジー、経営目標達成などを主導。マーケティングの展開やCSR活動にも積極参加しグループのイメージアップに努める。
日本での実績に裏打ちされた“7人7様”の能力を生かすことで利便性の高い商品・サービスを開発して顧客開拓を進め、破綻銀行を再生させた。互いの情報やノウハウを共有し運営に生かしてきたからだ。
親愛貯蓄銀での営業エリア規制問題やJTキャピタルでの消費者金融債権の保有率問題が生じたときは、JT貯蓄銀に債権を移すことで解決した。親愛貯蓄銀、JTキャピタルとも営業をやめることなく、グループ資産を最大化させた。個人顧客の紹介や企業向けシンジケートローンなども会社レベルにとどまらずグループで対応する。
グループ間で融通
人材交流も活発で、優秀な人材はグループ間で融通し合う。回収力があるTAA職員を貯蓄銀に出向させたり、消費者金融を得意とする親愛貯蓄銀職員をこれから強化するJT貯蓄銀に転籍させたりしている。
韓国に当初派遣されたのは15人。事業基盤が固まるにつれて減らしていき、残るのは7人。侍が持ち込んだ日本での成功体験は韓国金融事業を大きく成長させた。今や継続的に利益を計上できる体質に転換し、力を入れてきた社会貢献活動も社員に浸透。韓国民に支持されるグループになった。7人の侍の功績は大きい。(松岡健夫)=おわり
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