社長とは、聖人君子か、暴君か? リーダーシップの4つのスタイル
こんにちは、経営者JPの井上です。
日産・ゴーン前会長の電撃逮捕からおよそ1カ月。報道は、ゴーン容疑者の報酬に関する違法性についてと、日産・ルノー(・三菱)の今後のグループ経営に関する動静、そしてゴーン氏自体の経営者としての力量を問うものとに分かれています。
事件の容疑については捜査の進展を待つしかありませんが、さてでは、いわゆる「カリスマ型リーダー」と言われてきたゴーン氏は、経営者として問題だったのでしょうか?
◆リーダーシップの4つのスタイル
リーダーシップには幾つかのスタイルがあります。時代の変遷と共にそのスタイルは作られてきました。産業革命以降のピラミッド型官僚組織、日本の戦前戦後の古き良き村社会、90年代からのグローバル経済の中でのカリスマ型礼賛、21世紀以降のアジャイル&やりがい時代の「サーバント・リーダーシップ」、そしてこれから~。
慶応義塾大学大学院理工学研究科の特任教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科の客員教授を務める小杉俊哉さん(THS経営組織研究所代表)と当社で、リーダーシップの発展理論を明らかにしたものがあります(「リーダーシップ3.0(R)」「リーダーシップ4.0(R)」)。
そこではリーダーシップを「1.0」「1.5」「2.0」「3.0」そして「4.0」と位置付けています。ご紹介してみましょう。
「リーダーシップ1.0」は、古典的な官僚型組織、権威型組織でのマネジメントを指しています。権力、権限をふるうトップダウンで「あれをやれ」「これをやれ」というスタイルですね。
そこから日本の高度成長時代に見たリーダーシップスタイルを「リーダーシップ1.5(調整者型)」と呼んでいます。これは、ムラ型的でありつつ、その中で結構、現場を活かすことや意見を取り入れること、また集団としての仲の良さ、和気藹々としたものが組織に活かされるリーダーシップの時代でした。日本的雇用の「三種の神器」的なやり方が、世界のお手本とされ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとも言われて欧米が日本の組織を学びに来た時代でした。
今回の社長を目指す法則・方程式:
「リーダーシップ3.0/4.0」
(1)リーダーシップ1.0→官僚型、ヒエラルキー
(2)リーダーシップ1.5→村の中での和
(3)リーダーシップ2.0→カリスマ型
(4)リーダーシップ3.0→支援型
(5)リーダーシップ4.0→一人ひとりがリーダー
で、そこから1990年代になると、グローバル化も進み競争が激化する中で、「そんな生ぬるいことを言っていたら潰れてしまう」とばかりに、それまでのリーダーシップを否定するリーダースタイルが出てきました。「リーダーシップ2.0(変革者型)」です。
これは組織の方向性を大胆に提示して、部門間の再編・競争・交流を促すことで組織を変革していくタイプのリーダーシップを指します。いわゆるカリスマ型リーダーですね。ジャック・ウェルチ(GEの元CEO)やルイス・ガースナー(IBMの元CEO)など、個性が際立って見えるタイプのトップがグイグイと自社を率いていくスタイルが望ましく見えました。
まさに、苦境に喘ぐ日産の救世主として1990年代末に颯爽と登場したゴーン氏もまた、「リーダーシップ2.0(変革者型)」タイプのリーダーでした。
◆組織や個人の主体性、自律性を引き出せるリーダーが求められている
そして21世紀~現在です。
クビキリ文化のイメージが強いアメリカなどでも、ここのところ、「やっぱりレイオフをするにしてもレイオフのされ方の問題があるだろう」「ちゃんと情報共有して、社員全体の信頼関係をつくろう」「社内顧客として社員を扱おう」といった風潮が非常に強くなっています。
1990年代になって変革者タイプの「リーダーシップ2.0」が登場した。しかし、変革や結果に対する過剰な圧力などによって、組織はギスギスし、メンタル不調も増えた。そこで、また昔のようなコミュニティのあり方が注目されています。
グーグルの研究などを見ると非常に興味深いのが、彼らがあれほどの最先端テクノロジーを持った会社で徹底的に大量の人員とお金を投下して、「いったい、一番生産性が高いやり方はなにか」を解き明かしてみたら、何と、日本企業が昔やっていたようなことが一番良い、というような結論に至っています。
そのような状況を含めて、今、日本においても、世界においても望ましいリーダーシップスタイルとなっているのが、「リーダーシップ3.0(R)」です。
これは、リーダーが組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を涵養する。と同時に個人個人とも向き合い、オープンにコミュニケーションを取り、働きかけて、組織や個人の主体性、自律性を引き出すスタイルと定義付けています。
一般的には「サーバント・リーダーシップ」などと言われているものと、ほぼ同義です。
今回の社長を目指す法則・方程式:
「リーダーシップ3.0/4.0」
(1)リーダーシップ1.0→官僚型、ヒエラルキー
(2)リーダーシップ1.5→村の中での和
(3)リーダーシップ2.0→カリスマ型
(4)リーダーシップ3.0→支援型
(5)リーダーシップ4.0→一人ひとりがリーダー
こう紹介してきますと、「いま、取るべきリーダーシップスタイルは、あらゆる場面で3.0(4.0)なのだ」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。会社の創業期、新規事業の創出期、あるいは事業の大きな変革期や再生期においては、経営や事業の舵をダイナミックに切る/切り直す、大鉈を振るうべきときというものは、折々発生します。その際に必要なリーダーは「3.0」ではありません、「2.0」型のカリスマリーダー、我が社が行くべき道筋を明確に大胆に指し示し、全従業員をグイグイ引っ張っていくリーダーです。
日産においてゴーン氏は19年に渡る長期政権となっていました。当初ゴーン氏の「2.0」スタイルは素晴らしく効果的でした。「たられば」話になってしまいますが、日産のリバイバルプランが成功したのだとすれば、その後、再生を果たしたのちにゴーン氏もしくは後継者が「3.0」型リーダーシップで日産を自律型リーダー集団へと導くべきだったのではないでしょうか。次のフェーズへと移行すべき期間が十分にありながら、それができずにゴーン氏が経営や役員報酬の最終決定権をおそらく一人で握り続けるような「2.0」延命状況が、今回のような事象を招いたとも言えるのではないか。そんな風に思えてなりません。
◆全ての人がリーダーである時代へ
さて、さらに私たちは、その先の予兆も感じています。「リーダーシップ4.0(R)」です。
「リーダーシップ4.0(R)」の定義は、今後、明確化していくことになると思いますが、現時点で解説するならば、“自己実現”のようなものが軸となるリーダーシップ、となるでしょうか。
マーケティングの父、フィリップ・コトラーは「マーケティング4.0(自己実現)」と言っており、組織論の大家であるピーター・センゲも「ラーニング・オーガニゼ-ション(学習する組織)」を極めていく中で、数年前に出版した著書『持続可能な未来へ』の中では、古から学び、過去と未来の架け橋となり、両方を受け止めながらリーダーシップを発揮すること、とかなり精神性の話になって来ています。
「リーダーシップ4.0(R)」とは、全ての人がリーダーである、とも言い換えられます。
自分自身に対してリーダーシップを発揮しないと、「今、この環境の中で、ただ言われたことだけをやるんですか?」という話になります。自分のやりたいことに対して、自分が能動的に関わっていく-。「WHAT(テーマ)」を設定して、それに向かってやっていく。
そもそも組織としても言われたことしかやらない集団というのは、もはや機能しなくなっています。一人ひとりがリーダーシップを発揮することを、一人ひとりが意識しないといけない時代になっています。
これが「リーダーシップ4.0(R)」です。
今回の社長を目指す法則・方程式:
「リーダーシップ3.0/4.0」
(1)リーダーシップ1.0→官僚型、ヒエラルキー
(2)リーダーシップ1.5→村の中での和
(3)リーダーシップ2.0→カリスマ型
(4)リーダーシップ3.0→支援型
(5)リーダーシップ4.0→一人ひとりがリーダー
つまり、「リーダーシップ3.0(R)」「リーダーシップ4.0(R)」をスタイルとして体現していくことこそ、現在部長・課長としてご活躍中の読者の皆さんが、今後リーダーとしての良い歩みを実現するポイントになるでしょう。そして社長への道へ…。
◆そして組織は、「人」と「人」をつなぎ直すものへと
それは、ある面、原点回帰の部分もあります。
特に21世紀に入ってから日本企業は、機能的に(機械的に)単一の会社として効率や成果をあげることを、アメリカ企業以上に追求し過ぎてしまった感があります。
それで職場がギスギスして、人間の営みではなくなり、コミュニティ意識が持てなくなって、悩みが増え、簡単に社員が辞めていくようになってしまった部分があります。これは、むしろアメリカ以上に進んでしまったと言えるでしょう(実際、米国企業の方が、会社でオフサイトのイベントやバースデイ・サプライズパーティーをやったりしている割合が多くなっている現実がありました)。
思えば、「リーダーシップ1.5」の時代は、上司と部下の関係も、「人間」と「人間」でした。運動会をやれば、上司が不格好に転んだり、思いのほか活躍したりしました。社員旅行に行けば、酔っぱらって裸踊りしたり、卓球が上手だったりした。あるいは、上司の家に行ってごちそうになると、実は奥さんに頭が上がらないこともわかった。そんな人間的な側面を見る機会がたくさんありました。しかし、今は、それがどんどん排除されてしまった。部下と飲みにいくのも憚られる。
いま、「稲盛流コンパ」や「ヤフーの1on1」などと注目されている“新しい手法”は、なんのことはない、高度成長期の日本企業は大手から中小までほとんどの企業がやっていたことです。
「人」としてのあり方に改めて見つめ直しが起こりつつあって、いま、ぐるっと時代が戻って来たのかもしれません。
※「リーダーシップ3.0(R)」は、株式会社 経営者JPの登録商標です(登録番号:第5435135号)。
※「リーダーシップ4.0(R)」は、株式会社 経営者JPの登録商標です(登録番号:第5934148号)。
【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
経営者JPが運営する会員制プラットフォームKEIEISHA TERRACEのサイトはこちら。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日(※次回は1月7日の予定)。
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