【ゴーン事件を聞く】(中)日産、対等な持ち株へチャンス
□中西孝樹・ナカニシ自動車産業リサーチ代表に聞く
独立はある程度担保
--今回の事件は日産自動車のクーデターか
「内部通報から始まっており、何かを正したいという力は絶対にあった。カルロス・ゴーン前会長は今年2月にルノーの最高経営責任者(CEO)への再任が決まったが、仏政府はルノーと日産の資本関係を『後戻りできない形に見直す』条件を突きつけており、経営統合の密約がなされたのではと、日産に動揺が走っていた」
--日産には扱われ方に対する不満があった
「日産とルノーの規模に大きな差が出たのは、日産が米国や中国という大きく成長した市場を任されたからで、不公平というのは日産の見方だ。逆にルノーにはアライアンスが企業価値につながっていないという不満があり、日産を経営統合して全体の価値を高めるべきとの議論は以前からあったが、ゴーン前会長が抑えて続けてきた。だが、ゴーン前会長は変わった。トップを長くやり過ぎ、次のキャリアを目指した時期もあったが、良いプランが作れず、アライアンスに君臨し続けようと権力欲に傾き始めた」
--日産の後継会長をめぐり両社は対立している
「2015年に結んだ修正アライアンス基本契約には日産の取締役選解任の決議にルノーは反対できないとある。これを覆せないのであれば、日産の独立はある程度担保されている」
販売モメンタム低下
--今後のシナリオは
「アライアンスを否定することはあり得ない。開発や調達などの機能が統合されており、解消すればコストの方が高くつくからだ。お互いにもう一つ何か契約を交わして落ち着くまで現状維持を続けることはあり得る。ただ、日産にはアライアンスの仕組みを見直す良いチャンスで、対等な持ち株比率に見直すことも可能だ。ルノーも支配できないのなら株を売却して資金を得る選択肢もあり得る」
--日産への影響は
「ブランドへの不信感が生じているので販売のモメンタムは落ちると思う。将来計画が定まらないと投資ができないので開発計画も遅れるだろう。早期に信頼関係を取り戻してアライアンスを機能させないと、弱体化するリスクが高い」
--西川(さいかわ)広人社長のリーダーシップで乗り切れるか
「今は日産を守るという姿勢に対し、従業員、取引先、株主らの評価は高く、求心力は強い。ただ、彼自身が今後経営責任を追及される中でどこまで現状を維持できるか予想しづらい」
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【プロフィル】中西孝樹氏
なかにし・たかき 米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券東京支店株式調査部長、メリルリンチ日本証券などを経て、2013年から現職。東京都出身。57歳。
■【ゴーン事件を聞く】(上)「少数株主が受益者」徹底を を読む
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