またまた大変身…ホンダの新型「インサイト」が縮小市場のセダンに生まれ変わった理由
ホンダのハイブリッド車(HV)「インサイト」が4年ぶりに日本市場に復活した。12月14日に発売された3代目は先代よりボディの大きさや価格など車格が大幅に上がり、ハッチバックから上質なミドルサイズのセダンへと変貌を遂げた。あえて今、縮小傾向にあるセダンに生まれ変わった理由やセールスポイントは何なのか-。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz)
先代180万円台⇒新型は320万円超の上級モデルに
インサイトは「時代とHVの本格的な普及を洞察(=INSIGHT)するクルマ」という意味を込めて名付けられた、ホンダのHV専用車だ。
初代モデルは1999年当時の世界最高燃費を達成した2人乗りコンパクトクーペとして登場した。2009年に発表された2代目は5人乗りのハッチバックに変身。189万円からという低価格を実現し、初年度に10万台を販売したが、やがてトヨタ・プリウスとの販売競争に敗れる形で低迷し、2014年に生産を終了した。それから4年。復活を遂げた3代目インサイトは、走りやデザイン、使い勝手において「HVだから、エコカーだから…」といった制約や概念を一切取っ払い、クルマが持つ「本質的な価値や魅力を追求する」ことを主眼に開発がスタート。全長4675ミリ×全幅1820ミリ×全高1410ミリ、販売価格326万円台~362万円台のミドルセダンへと大きく姿を変えた。
なぜセダンなのか?
3世代続けてこれほど大胆に骨格を変えるクルマも珍しいが、なぜ今、あえてセダンなのか。ホンダの寺谷公良執行役員は、「初代から『インサイト』という言葉の意味を引き継ぎつつ、時代の変化に応じて形を変えながら進化してきたクルマ」とインサイトの役割を明確にしたうえで、3代目は「燃費・走り・デザインの3要素をトータルで追求したときに、結果的にクルマの基本形であるセダンにたどり着いた」と説明。「セダン市場は縮小しているが、世の中にHVが定着してお客様の選択肢も多様化している今だからこそ、走りやデザインといったクルマの本質的な部分をHVで追求した。カテゴリー上はセダンだが、いわゆる一般的なセダンでもエコカーでもない、ホンダらしいラグジュアリー・スポーツができた」とアピールした。
対プリウスの意識はない
インサイトといえば、やはり車両価格や販売面でプリウスとの比較は避けられない。これについて寺谷氏は、「客観的に見ると『インサイトVSプリウス』だろうし、第2世代はかなりガチンコ勝負をしたが、今回のモデルに関して個人的に“対プリウス”という観点はない」と私見を述べると、「研究所の人間は意識したかもしれないが、クルマが持っている味を考えると、プリウスと顧客を取り合うことはあまりないと思っている」とコメント。むしろ「ヴェゼルやCR-Vなどホンダ内部でHVの選択肢が増えて、選ぶ楽しみが出てくると思う」と笑顔で理想を語った。インサイトの開発責任者、堀川克己氏は「競合するHVシステムを聞かれれば、世界でもトヨタさんのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)しかない。我々も参考になる部分もある」とライバルの技術力の高さを認めながらも、「プリウスについては燃費性能を調べたくらい。プリウスのベース車両の燃費と同じくらいの性能を狙った方がいいのかな、と初期検討しただけ」と開発当初を振り返った。
ホンダ独創のHVシステム「i-MMD」
新型インサイトの主なセールスポイントは「優雅なデザイン」「内外装の質感」「先進運転支援システム『ホンダ・センシング』を標準装備した安全性能」の3つだという。さらに、HVのさらなる普及を目指してインサイトに投入されたのが、燃費と走行性能を高次元で両立させたホンダ独自の2モーターHVシステム「スポーツ・ハイブリッド i-MMD」だ。すでにステップワゴンやオデッセイにも搭載されており、ホンダにとって今後のグローバルな電動化戦略の根幹となる期待のパワーユニットだ。今回発表されたインサイトの燃費性能は1リッター当たり34.2キロ(JC08モード)で、「特に実燃費の良さが高く評価されていて、アコードでもコンスタントに20キロは走れる。パワフルかつ静かに気持ちよく走るのに、実際のガソリン消費は驚くほど少ない」と寺谷氏は胸を張る。
このi-MMDに1.5リッターのアトキンソンサイクルエンジンが組み合わされており、走行状況に応じてエンジンを停止させた「EVドライブ」、エンジンを発電機として使用してモーター走行する「HVドライブ」、クラッチを直結させてエンジンで車輪を駆動する「エンジンドライブ」の3ウェイ走行が可能だが、開発チーフの堀川氏は「このシステムにおけるエンジンの役割は発電機だと認識している。インサイトはほぼモーターだけで走る電動車という位置づけだ」と語る。
試乗は好感触
実際に神宮外苑周辺の2.5キロほどのコースを走る機会に恵まれたが、街中を流す分には完全にEV走行に徹していた。静粛性の高いモーター走行は十分に力があり、クルマの挙動や足回りは非常にスムース。大きめのボディには適度な重さが感じられ、ステアリングから伝わる安定感と、余裕のある上品な走りが印象的だった。
車内の設えは上質に仕上げられており、インパネを覆う手張りのソフトパッドはしっとりとした優しさを醸し出す。運転席周りのデザインは落ち着きがあり、スイッチ類の質感の高さや品のある雰囲気は幅広く支持されそう。シフト操作をボタン式にしたギアセレクターには味気のなさもあるが、操作は容易で不便はほとんど感じなかった。
外観はリヤエンドに向かってなだらかなルーフラインが続くファストバックスタイル。ワイド&ローのボディは巧みな曲線使いで立体的に仕上げており、躍動感や高級感を演出している。グリルやヘッドライト周りに組み込まれたクロームパーツの使い方も絶妙だ。一部で「奇をてらいすぎ」などとデザインが不評だったプリウスより、インサイトの方がスタイリッシュで美しいと思うのは、ごく一般的な考え方ではないだろうか。
はたして、グローバル市場をにらんだ上級ミドルセダンへの大胆な路線変更は吉と出るのか。寺谷氏は「インサイトにはHV専用車としての良さが確実にある。そして、確実に選ばれるクルマだと判断して投入を決めた。このクルマの価値に興味を持ってくださる方、一人でも多くの方に選んでいただきたい」と大きな期待を寄せる。「クルマの本質的な魅力」を磨いて表舞台に戻ってきたインサイト。捲土重来はなるか-。
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