【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】「決済アプリ」使ってますか?〈後編〉Origamiやメルペイも注目
【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】 前回からの決済アプリの話を続けます。
お隣の国、中国では?
ちなみにキャッシュレス決済が最も進んでいる国として挙げられるのが、お隣、中国です。この国においては、AlipayとWeChat Payの2大決済サービスが億を超えるアクティブユーザーを集めています。WeChat Payを運営するテンセントの2017年度第4・四半期決算では、WeChat Payのアクティブユーザー数はAlipayの5億2000万人を超えたと発表しています。日本人からすると、あまりにも大きなスケールの数字で混乱してしまいそうになります。でも、それが人口13億人以上を有する国で起こっている真実なのです。
さて、では、どうして中国ではキャッシュレス決済(QRコード決済)が爆発的に広がったのでしょう? 僕はそれは良く言われる「リープフロッグ現象(=カエルの一足飛びの進歩)」と考えています。つまり、中国の人たちは使わざるを得なかったのです。いろいろな意味で社会に「不便さ」があったからこそ、キャッシュレスの決済サービスが一気に広がったわけです。偽札の心配があるなど現金決済の信用性が先進国より低く、さらに携帯していたら盗難や強盗にあうかもしれない紙幣や貨幣といったものと比べたら、ものすごく便利なわけですから、使わない手はありません。
また事業者から見ても、QRコード決済はクレジットカード決済よりも導入コストが安いというメリットもあり、これが普及に拍車をかけてきたのだと思います。
キャッシュレス決済、日本ではなぜ根付きにくいのか?
それに比べて日本という土壌を見てみると、現金の偽造や盗難の心配もなくてそもそも安全ですし、コンビニなどをはじめどこにでもATMが設置されていてそこそこ便利だったという現実が浮かび上がってきます。
なぜこうも日本でキャッシュレスが根付かないのかは諸説ありますが、個人的には、理由の1つに、Suicaというものの存在が大きかったのではないかと思います。2001年11月にはじめて発行されたSuicaは、2018年3月には6942万枚(JR東日本調べ」)の発行枚数を誇っています。キャッシュレスの文脈でいうとSuicaがあればQRコード決済も特に必要ないわけですね。もちろんチャージ限度額があるなど、マイナスポイントもあるのですが、日常生活で利用する分には事足りてしまったりするのが現実です。Suicaは、本当にすごい仕組みだと思います。
だからもし、JRが早いうちに本気でキャッシュレス決済事業の拡大に取り組んでいたら、大勝ちしていた可能性もなきにしもあらずだったなと妄想してしまいます。QRコード決済では電車に乗れませんが、Suicaでは電車に乗るだけではなく売店などで買い物までできてしまいます。「Suicaなどで十分暮らせてますけどQRコード決済は必要ですかね?」というのが、多くの日本の消費者の本音かもしれません。
スタートアップの注目株は?
さて、そんなわけで、今日の日本では、雌雄を決する戦が繰り広げられているわけですが、僕が決済系スタートアップ企業の中で、とりわけ注目しているサービスがあります。それが、Origami Payです。プレスリリースなどを見ると、地方銀行、信用金庫などの地方金融機関との提携をしっかり結んでいて手堅くビジネスを展開している姿が浮かび上がってきます。どうして地方金融機関とつながっていると強いのでしょうか。
それは地方のユーザーをがっちり押さえられるからです。地方での地銀の存在感は、社会的信頼性や知名度において抜群です。私は奈良出身なので、やはり南都銀行には愛着があるので良く分かります。Origami Payの利用者である地方の人たちは、自らが持つ地方金融機関の口座にダイレクトに連携ができるというメリットを享受できます。つまり、リアルタイムに預金口座から決済代金が引き落とされるスマホ決済を利用できます。
Origami社が、地域で圧倒的信用力を誇る銀行などと決済サービスをヒモ付けると、そこには大きな経済圏が生まれます。地方金融機関は、地元の中小企業のほか、個人の口座を数多く有しているわけですから、そこに入り込んでいったOrigami Payは、目の付け所が素晴らしいと思います。
以上、例によって今回も駆け足になってしまいましたが、キャッシュレス決済の大まかな鳥瞰図は得られたのではないでしょうか。
最後に現時点での利用者数を調べてみました。すると、ICT総研が2018年12月に行ったアンケート調査「よく利用するスマホのQRコード決済サービス」では、1位が楽天ペイ、2位がPayPay、3位がLINE Pay、4位がd払い、5位がOrigami Payでした。僕の予想も、大方当たっていたみたいです。
また、この記事を執筆しているとき(2019年2月13日)、ちょうどメルカリの「メルペイ」がサービスを開始した、とのニュースが流れてきました。メルペイはQRコード決済ではなかったことは注目ポイントです。メルカリで稼いだお金をそのままコンビニやカフェなどで使えるようになるのは、メルカリユーザーにとっては、とても便利で嬉しいニュースではないでしょうか。メルペイの今後の広がりも楽しみです。
また今回、詳細に触れる時間がありませんでしたが、「Apple Pay、Google Pay、Amazon Pay」などの米国大手IT企業のものや、「ゆうちょPay」などの大手金融機関からのもの、「ファミペイ」などのコンビニエンスストアからのものなど、決済サービスは今、続々と誕生し続けています。
今後も、決済サービスの主導権争いはまだまだ続くことが予想されますが、その分、ユーザーとしては、彼らのサービス合戦の恩恵を受けながら楽しめるわけですから、注目しない手はありません。読者の皆さんも、心惹かれる決済サービスがあったら、一度使ってみてはいかがでしょうか。
【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。
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【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】は甲斐真一郎さんがフィンテックと業界の最新事情と社会への影響を読み解く連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら
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