【高論卓説】日本の輸出管理強化へ反発の韓国 米国は冷淡、思惑外れ関係悪化

 
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 7月の日本の輸出管理強化に対する韓国の反発は、これまで見えてこなかった米国と韓国の関係悪化を表面化させ始めている。韓国は日本の輸出管理強化に対して、米国にロビー活動を繰り返し、メディアを巻き込んだ大キャンペーンを打ったが、米国の反応は非常に冷淡なものであり、韓国の思惑は大きく外れることになった。

 そもそも論として、今回の輸出管理強化は、昨年成立した米国の輸出管理改革法(ECRA)と連動するものである。米国は軍事転用可能技術の流出を防ぐため、輸出管理強化を周辺国に求めており、日本もこれに呼応する形で2017年に外為法を改正し、輸出管理の強化に努めてきた。その際、日本の改正に合わせ韓国側に協議を呼び掛けてきたが、これに韓国側が応じなかったため、輸出管理を強化したに過ぎない。一言でいえば、輸出管理強化は米中貿易戦争の対中戦略の一部だ。当然、このような状況の中で米国が韓国に賛同するわけもなく、逆に韓国に対して日本への協力を求めたわけである。

 それに対して、韓国が日本と米国に対して出した答えが、一方的なGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄であった。当初、韓国はGSOMIA破棄に関して、米国の承認を受けていると発表したが、米国側がこれを即座に否定し、韓国に対して訂正を迫り、GSOMIA破棄の方針を撤回するように求めた。それに対して、韓国はハリス特命全権米大使を呼びつけメディアの前で、公の場でのGSOMIA破棄の批判を自制するように要求したのだった。そして、韓国大統領府は「GSOMIA終了は米との同盟より優先すべき国益」とコメントした。

 米国は、韓国の防衛のために、4万人以上の自国民を犠牲にし、現在もなお2万8500人の米国人が韓国の防衛にあたっている。当初は駐留費を米国が全額負担し、現在も駐留経費の半分近くを米国が負担している。確かに在韓米軍は韓国だけのためにあるわけではなく、対ロシア対中国の拠点でもあるが、在韓米軍と米韓の軍事同盟が韓国の安全保障を支えてきたことは間違いのない事実である。韓国大統領府の発言はこれを真っ向から否定するものであるといえる。

 もともと、文在寅政権は、親北朝鮮であり反米色の強い政権であり、米国に対して戦時作戦統制権返還を迫るなど、在韓米軍の価値を軽んじてきたが、同盟関係を否定する発言まで始めた。これに対して、米国は表立っては反応していないが、これにより、以前から予想されている在韓米軍の縮小や撤退が進む可能性が指摘されている。

 来年度の基地負担交渉で、米国は在韓米軍負担額をこれまでの5倍にあたる50億ドル(5300億円)を要求しているとされており、韓国軍の南シナ海防衛への参加を求めているともいわれている。また、トランプ大統領は米韓合同軍事訓練を金の無駄と発言しており、在韓米軍の存在に疑問符を投げかけてきた。

 意味合いこそは違うが、韓国、米国ともに在韓米軍に否定的なため、今後、米韓の駐留費交渉が決裂した場合、在韓米軍の縮小や撤退が一気に進む可能性がある。日本政府は在韓米軍撤退後の日本に対する韓国の敵対を視野に入れた防衛力増強を早期に進めるべきだろう。

【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。