【スポーツi.】白鵬帰化 年寄の国籍条件撤廃を

 
日本国籍を取得し、取材に応じる横綱白鵬関=3日、東京都墨田区

 横綱白鵬の日本国籍取得が認められ、3日付の官報で告示された。日本名はしこ名と同じ「白鵬翔」としたという。年寄として相撲界に残り、部屋持ち親方として後進を育て、相撲界に貢献したいためという。(GBL研究所理事・宮田正樹)

 よく知られているように、「年寄」(敬称として親方と呼ばれている)として相撲界にとどまるために日本国籍でなければならないという規定がある。

 なぜ、このような規定が残っているのか調べてみると、年寄襲名資格に「日本国籍を有する者」という条件が加えられたのは、1976年9月3日の相撲協会の理事会においてであった。当時、米ハワイ出身力士・高見山が幕内で活躍していたのだが、彼の年寄襲名を防ごうという意図からこの条項が追加されたようである。

 襲名は105人限定

 現役を引退した力士が相撲協会の構成員としてとどまるには、原則として年寄になる必要がある。年寄になるためには年寄名跡を保有している必要がある。年寄名跡とは、相撲協会の年寄名跡目録に記載された年寄の名を襲名する権利であり、俗に年寄株、親方株とも呼ばれており、その数は105人と限られている。名跡の譲渡は当事者に任されていたが、多額の金銭で売買されたり、貸し借りが行われたりするなど、不祥事の原因ともなっていたため、2014年に相撲協会が「公益財団法人」化したときに、名跡は協会が管理するものとされ、全年寄が協会に名跡証書を提出し、金銭授受や貸し借りは禁止された。年寄襲名も、力士の引退に際して理事会が開かれ襲名の承認を得ていたが、14年の公益法人化以降は、新設された年寄資格審査委員会での過半数の承認を経て、理事会で最終承認を得るという形式をとるようになった。

 一般的な襲名の条件としては、(1)最高位が小結以上(2)幕内在位通算20場所以上(3)十両(関取)以上の在位を通算30場所以上(ただし、関取在位通算28場所以上なら、名跡の前保有者と師匠、保証人の親方の願書があれば、理事会でその是非を決定する)-などの条件を満たしていればよいとされている。

 また、年寄となって自分で部屋を新設しようとするとその条件は次のようになる。(1)横綱もしくは大関(大関から陥落した力士も含む)(2)三役(関脇・小結)通算25場所以上(3)幕内通算60場所以上(番付制限なし)-のいずれかを満たし、師匠の了承を受けることにより、引退後1年以上経過した後、理事会の承認を経て部屋を新設できる。

 現役引退後の職場

 部屋持ち親方(師匠)は相撲部屋の経営者であり、弟子(力士)の指導者であり、相撲協会の構成員である。弟子の指導・育成のほか、自分の部屋に配属された行司、呼出、床山などの協会員を指導・養成することも仕事となっている。

 部屋持ち親方には、協会の構成員としての報酬のほか、所属力士1人当たり1場所ごとに部屋維持費と稽古場経費、幕下以下の力士への力士養成費、関取を育て上げた養成奨励金などが支給されているが、それらで不足する経費は、「タニマチ」などの支援者から調達するという経営手腕が必要なのである。

 一方、部屋持ち親方ではない年寄は部屋付き親方と呼ばれ、相撲部屋に所属し、師匠を補佐し、力士の指導などを行うほか、相撲協会の職員としての仕事を行う。歴史的経緯により年寄が主体となって運営されている大相撲において、年寄は力士の引退後の職場としての性格を有しているのである。

 若くして日本に来て、日本人力士よりも苦労して力士となり現役を務める外国人力士に、自国籍の喪失を伴う帰化という過酷な選択を強いる現在の年寄襲名資格から日本国籍条件を撤廃するよう強く主張したい。

【プロフィル】宮田正樹

 みやた・まさき 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。