千葉元気印企業大賞 キーパーソンインタビュー

 
工藤英之 拓匠開発社長
瀧川翔氏

 ■「これ、おもろいか?」発想をカタチにする

 □工藤英之 拓匠開発社長(2016年度第22回 優秀経営賞受賞)

 「『本能に、感動を。』という経営理念に従い、『おもろいもの』に挑戦を続けることで、社員にも街の人たちにも、拓匠開発を好きになってほしい」

 平屋建ての分譲住宅供給を通じたまちづくり、生きた樹木を建築上の基礎として活用するツリーハウスのある集いの場の提供。次々と斬新な発想を実現し、不動産開発の業界からも注目を集める。

 父親の会社を継いで2代目社長に就任したのは2009年6月。住宅購入用途向けサブプライム・ローンの不良債権化や投資会社大手リーマン・ブラザーズの経営破綻など米国発の経済危機が地球規模で波及した時期に、新たに就任した社長は「攻め」より「守り」の経営に追われた。

 「周囲からは『会社を守っていくことが何よりも重要』と繰り返し聞かされてきた」と振り返る。しかし、2年ほどして、父親の社長時代に比べて売上高はわずかに伸びたものの、自らが経営しているという実感を持てなかったという。

 「大きな失敗もせず、会社を維持してきた。その一方で、ほとんど何も挑戦していなかったことに気付いた」

 拓匠開発は、戸建てのディベロッパーである。土地の基本調査や測量、土地の仕入れを行い、街の企画設計を経て開発許認可を取得する。造成工事を行い、ハウスメーカーなどに区画を販売して利益を得る「B to B」ビジネスを主力事業としている。

 父の時代にも、業容の拡大を狙って戸建ての建築設計施工、販売という「B to C」事業に乗り出したがうまくいかなかった。2代目社長は、挑戦する経営の突破口として、父ができなかった「B to C」への再挑戦を決意し、見事に成し遂げた。

 「父は、すべてを自分でやろうとしていた」と敗因を分析。専門家をヘッドハントし、「強いプロ集団」の編成に力を入れた。ワンマン経営から脱皮し、全員参加のチーム経営を目指した。

 社長就任時に社員数は20人程度だったが、今ではおよそ70人となった。「社員の意見を集約したうえで、最後はトップである自分が決断する」という経営スタイルを徹底し、次々とアイデアあふれるプロジェクトを実現してきた。

 「坪単価」で住宅を評価する傾向がみられる日本の不動産業界において、「平屋建ての街づくり」はそうした業界慣習を問い直す発想に基づいているとも言える。日本の戸建ての分譲は、狭い土地を使って、いかに広い空間をつくるかに重点が置かれる。このため、住宅業界では2階建てから3階建てへといわば「上へ上へ」の発想で競争が行われる。

 これに対して、自らオーストラリアを視察した時に見た平屋の街並みに心が動かされた。「平屋建ては、バリヤフリーにしやすい。さらに、階段などのスペースを省けるので、部屋のレイアウトの自由度も増す」と語る。実現したプロジェクトは高い評価を受けている。

 成功の背景には、実際に住む人々による暮らしへの満足感がある。欧米の戸建てのように庭を広く取れないため、デザイン性に優れた共有スペースを設置。住む人々の利便性を高めるために、ベーカリーショップを自社で設けたプロジェクトもある。自社で不動産管理会社を設立し、マンションのように住民サービスを提供している。

 また、米オレゴン州ポートランドを訪れたときに見たツリーハウスを会社の所有地に建てた。ワゴン販売などのサービスも好評で、市民の憩いの場になっている。また、昨年からは、社会貢献事業として、千葉市の恒例イベント「大賀ハスまつり」のナイトエンターテインメント「夜ハス」を始めた。拓匠開発によるユニークで着実な取り組みはこれからも続く。

【プロフィル】工藤英之

 くどう・ひでゆき 日本大学生産工学部卒。工務店で3年間働いた後、2002年9月、父が経営する拓匠開発に入社。常務を経て09年6月に社長就任。プライベートの旅行を合わせると、約30カ国以上を訪れ、世界中の住宅を見聞する。海外市場にも関心が高い。手始めに、インドで日本人向けの長期滞在型集合住宅の運営を手掛ける。全員参加のチーム経営を掲げ、抽選で決めた4人1組でそれぞれの場所へ訪れる研修旅行も。45歳。

 <企業プロフィル>宅地造成、企画、分譲、建築設計施工、アフターサービスまでを一貫して手掛ける。リノベーション事業にも進出し、マンションから戸建てへの住み替えを含め新たな顧客層の開拓に成功した。千葉県野田市みずき4丁目の194区画の大型プロジェクト「オオソラモ野田みずき」や、千葉公園の近くにあるツリーハウスやキッチンカーを配置したカフェ&コミュニティスペース「椿森コムナ」などのプロジェクトで知られる。千葉市中央区に本社、柏市、福岡市に支店を構える。

 ■子供の誤飲防止に役立つ機能性袋を開発し、家庭に配布

 □瀧川翔 タキガワ・コーポレーション・ジャパン常務取締役営業本部長

 顧客の要望に応じて、ユニークな機能を特徴とする包装資材を一貫製造する。瀧川弘幸社長の長男で、営業本部長を務める瀧川翔常務取締役は「リサーチ力と発想力で、ユニークな機能性袋を開発してきた」と胸を張る。

 袋の内部に梱包される様々な物資を保護するため、袋の空気抜けだけではなく、空気を抜く流量調整が可能な防虫空気抜けシステムを開発。顧客の課題を解決する数々のユニークな機能性袋を市場に送り出してきた。

 瀧川常務一押しのアイデア製品は、子供の誤飲防止に役立つ「こまもり袋」だ。米国で幼児による誤飲を防止する啓発活動が広まり、そうした需要の高まりを受けて開発に着手した。特殊な構造のチャックが付いており、コツをつかまないと簡単には開けられない。「正しい手順に従わないと開封は難しい。大人が適切に開封する仕組みを採用した。誤飲の恐れがあるものを袋に入れ、チャックを閉めるだけでチャイルドレジスタンス(CR)機能が働く」と説明する。2017年12月に、CR機能を持った袋として国際規格および米国規格の正式な認証を得た。

 このほど、小児科の処方箋を扱うクオール(東京都港区、荒木勲社長)と協力し、通常の薬袋の代わりにCR機能を持つ袋の配布を始めた。クオールは、子育て世代をサポートするサービスを独自に提供しており、新たな取り組みとして「こまもり袋」をクオール店舗に導入した。両社は協力体制のもと、今後も「こまもり袋」の普及に力を入れ、幼児による誤飲防止の啓発活動に積極的に取り組んでいく方針だ。

 タキガワ・コーポレーション・ジャパンは1907(明治40)年に創業し、49(昭和24)年から他社に先んじてプラスチック製品の製造に着手した。「安全と安心の提供」を経営理念として品質向上に努め、数多くの新製品を開発してきた。ペットフード向け角底袋のヒットなどをきっかけに業績が成長軌道に乗り、角底袋のシェアはトップクラスを誇る。

 東日本大震災の翌年の2012年には、災害時の生産バックアップ機能を併せ持たせたベトナム工場を設立。さらに、旺盛な北米の需要に対応するため、19年には米国にも生産拠点を構えた。瀧川社長の二男をベトナム、三男を米国の現地法人トップに据え、瀧川3兄弟は3極体制でグローバル経営を進めている。

 近年、プラスチックごみによる海洋汚染の問題が世界的に注目されている。欧州では、海洋生物保護を目的とした使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する方向へと進んでいる。

 瀧川常務は環境対応技術の開発を最重要課題と位置づけ、技術開発に一段とアクセルを踏んでいる。

【プロフィル】瀧川翔

 たきがわ・しょう 瀧川弘幸社長の長男。2010年に入社し、ベトナム工場の立ち上げに関わる。2年後に現地法人の社長に就任。「文化や言葉の違いに苦労したが、明るい性格で高いモチベーションを持つ現地の従業員たちに助けられた」という。ベトナム工場は欧州などへの輸出基地の役割を担い、グローバル3極体制の礎となる。16年に常務取締役営業本部長就任。35歳。

 <企業プロフィル>1代目の瀧川喜一郎氏が瀧川製作所(現タキガワ・コーポレーション・ジャパン)を創設し、象牙を使用した和楽器の三味線に使用するバチ、象牙琴柱(じ)などの製造を開始。2代目、幸一氏の時代に塩ビ原料によるベルト、ホースなどの製造に乗り出し、日本初のプラスチックによる三味線バチ製造を行い、フラフープなどの製造・販売も手掛けた。3代目、弘幸氏は、本社工場を千葉県船橋市習志野へ移転し、袋の設計、フィルム、印刷、ラミネート、製袋まで一貫生産する体制を構築した。

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【千葉元気印企業大賞】

 千葉県の産業や地域企業のさらなる発展を促進し、日本の産業基盤を支えていくことを目的として1995(平成7)年に制定された表彰制度。特色ある新技術や新製品の開発、ユニークな経営の実践などを通じて、時代を先取りする中堅・中小およびベンチャー企業を対象として審査委員による選考を行ったうえで表彰。応募資格企業は千葉県内に本社および事業所をもつ、株式上場会社を除く全企業(ジャスダック上場企業の応募可)。応募期間は、10月31日まで(当日消印有効)。

【主催】フジサンケイビジネスアイ 【共催】千葉興業銀行

【問い合わせ】フジサンケイビジネスアイ 千葉元気印企業大賞事務局

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