中国・2つの巨大な消費市場 「車市」と「房市」に見え始めた影

 
今年4月の上海国際モーターショー(共同)

 石平のChina Watch 中国では、「車市(自動車市場)」と「房市(不動産市場)」と呼ばれる2つの巨大な消費市場があって、中国経済の中では欠かせない重要な地位を占めている。

 中国の自動車市場は、最盛期の2017年で新車販売台数が2887万台と過去最高を更新し、9年連続で世界1となった。同じ年の日本の新車販売台数は523万台だから、中国自動車市場の巨大さがよく分かろう。このような巨大市場の上に成り立つ自動車産業は当然、中国経済を支える「大黒柱」となっている。その裾野の広さは周知の通りであり、数万点の部品からなる自動車を大量に造って売れば多くの産業が潤う。

 しかし、最盛期が過ぎた18年7月あたりから、中国市場の新車販売台数は急速に落ちはじめ、その時から自動車市場は連続13カ月のマイナス成長となった。今年7月の新車販売台数は181万台、18年1月の280万台と比べると約100万台の激減だ。

 このままでは、新車販売台数は最盛期の半分以下に落ちていくだろう。中国の「車市」と自動車産業の繁栄はもはや過去のものとなった。

 前述のように、自動車産業の裾野は極めて広いから、その早すぎる衰退は当然、中国経済の沈没に追いうちをかけることとなろう。今後の中国経済の減速は、より一層激しくなるのだ。

 自動車産業と並んで中国経済を支えているもう一つの「大黒柱」は、「支柱産業」と呼ばれる不動産開発業である。18年の1年間、中国国内の不動産投資総額は、何と12兆元(約180兆円)に上り、当年度の国内総生産(GDP)=約90兆元の1割以上を占めていた。

 自動車産業と同様、不動産開発業の裾野も広い。マンション1棟を建てて売れれば、鉄鋼産業もコンクリート産業も内装産業も家具産業も、皆喜ぶのである。

 今のところ、中国の不動産市場と不動産開発業は成長を続けており、衰退はしていない。しかし、かげりはすでに見え始めている。

 3日付の経済参考報の関連記事によると、今年8月の全国都市部の不動産市場は低迷しており、そのうち、29の大都市の不動産成約面積は7月と比べると6%減ったという。北京、上海、広州、深センの4大都市となると、不動産成約面積は、7月より10%も減少したから、不動産市場の激しい冷え込みはすでに始まったもようである。

 その中で、不動産物件の大幅な値下げも一部で始まった。例えば8月19日、広州市のいくつかのメディアが報じるところによると、市内のある高級マンションの新規分譲物件の価格が数日間のうち、に、1平方メートル当たり4万6千元から3万6千元に落ちてしまい、一気に約20%の値下げとなった。

 これは単なる個別事案かもしれない。だが、消費全体が冷え込んで大量の不動産在庫が蓄積している中で、不動産価格全体の下落は、もはや時間の問題だ。下落が加速化すれば、不動産バブルの崩壊にもつながる。

 その一方で今年8月、40の大手開発企業が受けた新規融資は7月より6割も激減したと報じられている。中国の不動産開発業を支える、それらの大企業は、新規不動産を造っていく意欲が大幅に減退しているのだ。その意味するところはすなわち、今後における不動産市場と不動産開発業の大衰退である。

 中国経済成長の柱である「車市」と「房市」の両方が一斉に衰退していけば、中国経済の「末日」はそう遠くないだろう。

【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。