【道標】大きな可能性のある電池技術 低炭素化など用途拡大に期待
今年のノーベル化学賞が、リチウムイオン電池の開発に貢献した旭化成名誉フェローの吉野彰氏に授与されることになった。大変喜ばしい。吉野氏は負極に炭素繊維を用いることでリチウムイオン電池の小型軽量化を実現し、携帯型の電子機器の実用化に貢献した。
そして現在、リチウムイオン電池は繰り返し使える他の2次電池に比べてエネルギー密度が高く、小型化できるという特徴を生かして、さらなる用途拡大に向かっている。
牽引(けんいん)役の一つは、電気自動車(EV)である。近年、量産による低コスト化と普及拡大の好循環が生まれつつある。また、日本のみならず世界中で太陽光や風力など発電量が変動する再生可能エネルギーの普及が進む中、余った電気をためたり、変動を調整したりという用途も注目されている。
まだ比較的高価格だが、太陽光発電の電気をためる家庭用蓄電池の普及も徐々に進み始めた。ここでも低価格化は進んでおり、米ハワイ州などでは太陽光発電と蓄電池を組み合わせた発電のコストが、火力発電などによる一般の電気料金とほぼ同じか、下回るレベルになっている。この傾向は今後も進むだろう。日本でも経済産業省が2015年度には1キロワット時当たり22万円である家庭用蓄電システムの価格を20年度には同9万円にまで下げるという目標を掲げて、普及拡大政策を打ち出している。
加えて、日本では今年から、家庭用太陽光発電について固定価格買い取り制度による10年の買い取り期間が終了する世帯が出てくる。太陽光発電の電力を高価な固定価格で電力会社に売っている間は、蓄電池を導入するインセンティブは少ない。だが、買い取り期間終了後は、昼間に発電した電力を家庭用蓄電池にためて夜間に使用したり、別の事業者に売ったりするという需要家が増えることも予想される。こうした取り組みが活性化し、蓄電池の導入が拡大、電力システムの柔軟性が増すことも期待される。
11年の東京電力福島第1原発事故以降、国内では電力システム改革が進展しているし、世界的にも大規模集中型から再生可能エネルギーを中心とした分散型のエネルギー需給システム実現に向けた動きが加速している。地球温暖化防止の観点からは、現在は火力発電が担っている変動する再生可能エネルギーの調整力の「低炭素化」も大きな課題となっており、蓄電池がその役割を果たすと期待されている。
蓄電池は、素材、電池製造、システムの開発・運用や電力小売り、再利用や資源回収など、上流から下流に至るさまざまなバリューチェーンに関連するキーデバイスであり、多くのビジネスチャンスを生む。日本の産業界の競争力を考える上でも、重要なものだ。
既存のエネルギーシステムを大きく変え、持続可能なものにしてゆく可能性を秘めている重要な技術だ。日本企業の研究者が実用化に大きく貢献したリチウムイオン電池は、今後のエネルギーシステムにとって不可欠な機器の一つとしてさらに重要性を増すと考えられる。
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【プロフィル】長谷川功
はせがわ・いさお 三菱総合研究所主任研究員。1982年千葉県生まれ。エネルギーシステム論が専門。2007年に三菱総合研究所に入社。17年から現職。
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