ラピュタで人気の友ヶ島に「音の美術館」 景観損ねない最新“展示”技術

 
音声ARを使った「音の美術館」として活用されている友ケ島第3砲台=和歌山市

 BGMや観光案内、架空の物語といった音声情報を、観光地や歴史施設に組み合わせ、地方の活性化につなげる取り組みが広がりつつある。使うのは、利用者の場所に応じて音を自動再生する最新技術「音声AR(拡張現実)」。和歌山市沖の観光地・友ケ島では、音声ARを使った「音の美術館」が“開館”した。音声情報で体験型観光の可能性を広げ、既存の観光資源に新たな価値を作り出す試みに注目が集まっている。(有年由貴子、細田裕也)

 「この地でわれわれは、今は絶滅してしまった生物の痕跡を発見した」「島に残ったさまざまな痕跡を分析した調査結果をここに報告する」

 旧日本軍の砲台跡など多くの歴史施設が残る友ケ島。中央部にある「第3砲台跡」で、スマートフォンの音声ARアプリを作動させると、ナレーションが響き始めた。

 流れるのは、島を舞台にした架空のストーリー。薄暗い弾薬支庫跡で、音声に導かれながら懐中電灯で照らすアート作品を観賞していくと、物語の世界を探索しているかのような感覚に包まれる。

 この「音の美術館」は市と、音楽などの事業を手がけるエイベックス・エンタテインメントが共催し、アプリを開発。アプリ利用者の位置情報を、各ポイントに設置したビーコン(電波発信器)を使って把握し、音声や音楽を再生する仕組みだ。利用者がポイントに近づくだけで、アプリから音声が自動で流れる。

 現在は場所によってさまざまにアレンジされた童歌が聞こえる常設展のほか、島内の戦争遺構などを訪れると解説が流れるガイドが利用できる。アプリを使った和歌山市の会社員、田村進一郎さん(21)は「子供の頃から島には何度も訪れているが、今まで素通りしていた場所にも意味があることを知ることができた」と話した。

 友ケ島は近年、スタジオジブリの人気アニメ映画「天空の城ラピュタ」の映像風景に似ていると人気を集め、平成30年の来訪者数は約7万人と10年間で3倍以上に急増。一方、リピーターづくりや新規ファンの獲得も課題で、市の担当者は「音声ARの導入で島の魅力を高めたい」と意気込む。

 同社担当者は「音声は多言語化やストーリーなどその土地の価値を多層化していける。地方創生の一助になれば」としており、他の地方自治体などからも連携の相談が寄せられているという。将来的には、視覚障害者の補助技術としても応用を目指している。

 メディアを使った地域観光に詳しい立命館大の遠藤英樹教授は「個々に合わせた対応ができる音声ARは、観光客がそれぞれに地域の物語を発見できる。土地との結びつきもより深く感じられ、地域振興につながるツールとして導入が広がっていくのではないか」と話している。

 博物館、イベント会場…広がる音声AR

 音声情報は看板設置などを伴わないため景観を損なわず、内容の変更や消去も容易だ。「新たな付加価値」を付けるツールとして、地方の観光地や博物館、イベント企画で音声ARの活用が広がっている。

 平成30年8月、北海道函館市出身の人気ロックバンド「GLAY」の地元ライブ開催に合わせ、ゆかりの地を訪れるとスマートフォンでGLAYの楽曲やメンバーのコメントが流れる“聖地巡礼”イベントを所属事務所が企画した。

 技術提供を行ったIT関連企業のブログウォッチャー(東京)によると、期間中の訪問者は普段に比べ増加。協力した函館市の担当者は「訪問先での地元住民とファンの交流も生まれ、函館のPRの一助にもなった」と話す。

 ミツカン(愛知県半田市)が運営する博物館「ミツカン ミュージアム」では30年7月、酢造りの歴史を伝えるコーナーに音声ARを導入。ガイド付きの人気コーナーのため、以前は人数や時間に制約を設けていたが、予約のない来場者でもスマホを使って音声ガイドを聞いたり画面の説明文を読んだりしながら、自由に見学が可能になった。

 「音声ARなら展示物のイメージを損ねることなく情報を届けられる」と榊原健館長。来館者の動線や滞在時間もデータ化できるため、今後の展示改修などに役立てたいとしている。