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医師は受けないバリウム検査が存続する理由 がん発見率は胃カメラの1000分の1 (1/3ページ)

 胃がんの早期発見のために受ける検査にはバリウム検査と胃カメラ検査がある。ただし胃カメラ検査のがん発見率はバリウム検査より1000倍も高い。それでは、なぜバリウム検査がいまだに存在するのか。予防医療に力を入れるMYメディカルクリニックの笹倉渉院長に聞いた--。

 厚生労働省のがん検診の指針で定められている

 胃がんの検査方法として代表的な、バリウム検査(胃部エックス線検査)と胃カメラ(胃部内視鏡検査)。実は、その2つには精度に大きな違いがあります。

 胃がんは粘膜の表面から進行していくのですが、バリウム検査で見つけることができるのは早期胃がんのなかでも「粘膜下層」といって粘膜の表面よりも深くまで進行してしまったがんです。

 一方、胃カメラは粘膜の表面に胃がんが生じた段階で発見することができます。いまだ多くの検診ではバリウム検査が採用されていますが、胃がんをより早期に発見したいのであれば胃カメラの方が断然有効であるといえるでしょう。

 バリウム検査で胃がんの疑いがあると診断された場合にも、二次検査として胃カメラでの確認を行うことになります。結局二度手間になってしまうため、初めから胃カメラを行った方が良いことは明らかです。バリウムと胃カメラの精度の違いを知っている私たち医師がバリウム検査を受けることはまずありません。

 しかし、依然としてバリウム検査は胃がん診断のための検査として行われています。

 これは、端的にいえば厚生労働省が定めているがん検診の指針に、いまだバリウム検査が含まれていることが原因です。胃がん検診の検診項目は、「問診に加え、胃部エックス線検査又は胃部内視鏡検査のいずれかとする。市町村は、胃部エックス線検査及び胃部内視鏡検査を併せて提供しても差し支えないが、この場合、受診者は、胃部エックス線検査又は胃部内視鏡検査のいずれかを選択するものとする。」と定められているのです。

 指針に含まれている以上、バリウム検査を全く行わないというわけにはいきません。

 胃カメラの方ががんの早期発見に優位だ

 それでは、なぜそのような指針になっているのでしょうか。国のがん対策は死亡率をエビデンスとしており、そのデータがバリウム検査を受けた人のものしかないからです。「1~3年以内にバリウム検査を受けた人の死亡率が、受けなかった人に比べて60%減少した」というデータがあります(がん検診のあり方に関する検討会中間報告書~乳がん検診及び胃がん検診の検診項目等について~平成27年9月)。

 たしかに、バリウム検査を行う意味が全くないというわけではありません。バリウム検査でも、粘膜下層まで進行したがんであれば発見することができます。粘膜下層まで進行していても、手術を受ければ大概の場合寛解します。

 とはいえ、バリウム検査は約80年前、胃がんのメカニズムが分かる以前に開発された古い検査で、日々進化する胃カメラの精度にはかなうはずもありません。体の外側からレントゲン撮影するバリウム検査より、鮮明に胃の内部を確認することのできる胃カメラ検査の方が早期発見に優位であることは明らかです。

 また、人件費の問題もあります。胃カメラ検査は医師しか行うことができませんが、バリウム検査は医師のほかレントゲン技師も行うことができます。そのため、コスト削減のためにバリウム検査のみを行う医療機関も多く存在するのです。

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