高論卓説

新型コロナ、中国の責任転嫁に絶句

 60年ごとに災難が訪れる庚子の年

 今年は十二支でいうとねずみ年にあたる。また、十干と十二支を組み合わせ、甲子(きのえね)からはじまり60番目の癸亥(みずのとい)までの干支(えと)でいう37番目の庚子(かのえね)の年にもあたる。余談だが、甲子園球場の名前の由来は、1924年の甲子の年に完成したことから来ている。(森山博之)

 中国ではこの60年に一度の庚子の年は激動の年になるといわれている。1900年には義和団の乱が起こり、八カ国連合軍が北京に攻め入り、その後の清朝滅亡へとつながった。このときの賠償金を中国では「庚子賠款」といい、この賠償金の一部を米国が返還して設立されたのが、現在の清華大学の前身である。さらに1960年前後には、大躍進政策により数千万人の餓死者を出している。そして、今年2020年には、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が発生している。

 新型コロナの発生源は、中国湖北省武漢市の「華南海鮮卸売市場」とされているが、中国政府は自国内での感染者の抑え込みにめどがつくと、一転して自国が発生源であることを否定するかのような態度に豹変(ひょうへん)した。中国外務省の報道官が「米軍が武漢に感染症を持ち込んだ」とネットに書き込みをするに至っては、米国の公職関係者も中国の地名を冠した別名で新型コロナを称するなど、双方の非難の応酬を招いた。

 中国政府の隠蔽(いんぺい)体質が初動の遅れをもたらし、さらに諸外国への情報伝達の遅れにつながり、現在の世界中での蔓延(まんえん)につながったのである。東京オリンピック・パラリンピックも延期になるなど、世界中を混乱に陥れるきっかけを生じさせておきながら、その責任を他国に転嫁しようとする中国政府の態度には、開いた口がふさがらない。

 華南海鮮卸売市場は「海鮮」とは名ばかりで、実際には生きた野生動物も食材として販売していた。中国では野味(やみ)という野生動物を食材とすることを珍重する食文化がいまだに存在する。滋養強壮などに効果があるとされているのだ。

 03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の際に、野生動物の販売が禁止となったが、その後「飼育された野生動物」という限定条件付きで販売が解禁されていた。ただ、野生動物が家畜化されたわけではなく、なし崩し的に黙認されてきたのだ。

 SARSもコウモリを宿主とするウイルスが、ハクビシンを介して人に感染したとされている。新型コロナもコウモリが宿主で、それが海鮮市場の野生動物(センザンコウとする説あり)を介して人に感染したのではないかとされている。

 一方で昨年12月8日に発病した第1号患者は、過去に一度も華南海鮮卸売市場を訪れたことがないという情報もあり、武漢市内にある中国科学院武漢病毒研究所と武漢市疾病預防控制中心の2カ所の政府系のウイルス研究所のいずれかから、ウイルスが流出して感染が拡大したのではないかとの説もある。特に後者は、海鮮卸売市場に近接している。

 いずれにせよ中国当局が「原因不明のウイルス性肺炎」を初めて公表したのは12月31日で、「人から人」への感染を認めたのは1月20日になってからだ。27日から海外への団体旅行のみを禁止したが、春節期間中に中国人旅行者が移動し、世界中に感染が拡大したのは間違いない。中国は初動の遅れが世界中にこの感染症を拡散させたことを反省するとともに、発生の原因を究明する責任がある。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。大阪府出身。