■往年のデザインとデジタル高機能を両立
高級コンパクトデジタルカメラの分野を切り開いた富士フイルムの「FUJIFILM X100」。その後継機「FUJIFILM X100S」が若者の心を捉えた訳は、持ち運びや撮影の手軽さを競う市場のトレンドを逆手に取った商品戦略にあった。
カメラ機能の優れたスマートフォン(高機能携帯電話)の攻勢を受け、“デジカメ不況”が続く中、X100Sは当初の2013年度販売計画の3割増しで推移するなど、高級デジカメの存在感を改めて示した。
「X100の後継機の開発は、これからも高級デジカメが本当に売れ続けるのかを世に問い、その価値を証明する取り組みとなる」
X100Sの開発プロジェクトが立ち上がったのは12年春。光学・電子映像事業部営業部マネージャーの河原洋氏は、仲間と話し合ったときに発した自らの言葉を今も忘れられない。
◆原点回帰ずばり的中
前モデルのX100で目指したのは「カメラの原点回帰」(河原氏)。カメラファンに「往年のクラシックなカメラの良さ」(デザインセンターデザインマネージャーの今井雅純氏)を思い起こさせることだった。レトロなデザイン、手に取った時の質感と重み。その狙いはずばり的中し、コンパクトカメラ市場に放った衝撃は開発メンバーの予想を超えた。
このX100の成功を引き継ぐため、X100Sは、通常の商品開発の常識を破り、消費者の裏をかく戦略をとった。つまり、本来なら「変化」を強調すべき商品開発戦略をとらず、あえて「変えてはいけないもの」(河原氏)を明確に示した。
「変えない」戦略はリスクが高い。マーケティングの原則では「前の商品に比べて小型・軽量になるなど、何らかの『変化』に対して消費者はお金を払う」(河原氏)と考えられているからだ。
それだけに「変えない」だけでは勝てない。同時に「変えるべきもの」「進化すべきもの」という3つのコンセプトを打ち出し、X100を上回る商品を目指した。
変えてはいけないものとは「デザイン」だ。担当の今井氏は「高級カメラといえば、子供のころ、父親が大事にしていた往年の欧州ブランドカメラ。外国人のデザイナーに意見を聞いても、その考え方は同じだった」。
とりわけ、ファインダーをのぞく撮影スタイルを踏襲したことは、開発陣のこだわりだ。また、ダイヤルを回すときの「カチカチ」という音や、握ったときのボディーの重みやひんやりした感じ…。
「カメラの原点に立ち返って開発を積み重ねると、往年のブランドカメラのスタイルに行き着く」と今井氏は強調する。X100とX100Sは、はやり廃りのない「10年デザイン」を体現したといえる。
2つ目の変えるべきものは「完成度を高めること」(河原氏)だ。プロの写真家たちに「X100」の改善点を徹底的に洗い出してもらい、「X100S」の開発に反映させた。ボタンを押すときの固さや、ボディーのグリップ感、プロがこだわる細部の機能性など幅広い意見を吸収した。
◆新たな路線開拓に注目
最後の進化させるものはデジタル技術だ。R&D統括本部光学・電子映像商品開発センター技術マネージャーの近藤茂氏は「新開発のセンサーと従来比2倍以上の高速処理性能を持つ画像処理エンジンを搭載し、高画質と高速処理能力を高い次元で両立させた」と胸を張る。
また、光学ファインダーと電子ビューファインダーを切り替えて使える、こだわりの「ハイブリッドビューファインダー」も進化した。この機能は、カメラのプロたちの評価が高かったという。電子ビューファインダーが236万ドットになって「さらに見やすくなった」(近藤氏)。
被写体をできるだけクリアに見たいときは光学ファインダーを使い、ピントや露出、ホワイトバランスなどを確認しながら撮影したいときには、電子ビューファインダーに切り替えるなど、使い分けができるカメラは数少ない。
往年のカメラの姿をまとい、完成度の高まりとデジタル機能の進化を実現したX100S。高級デジカメの新たな路線を開拓できるか注目される。(小島清利)