当時の日本の石油備蓄は、民間による70日分だけだった。石油危機を踏まえて国家備蓄が始まり、現在の備蓄量は官民で180日分に増えた。中東への原油依存を脱する見直しが図られ、「脱中東」と「脱石油」がエネルギー戦略の目標となった。
原発の推進も石油危機が契機となった。原発立地を進める電源3法が制定され、危機前に9割に達していた火力発電の一極集中からの見直しが進んだ。
こうして原発は電力の3割を担うまでになったが、福島第1原発事故で原発が相次ぎ停止し、日本のエネルギー事情は40年前の水準に戻った。
いま再び火力発電は電源構成の9割を占め、原油の中東依存は8割を超えた。「ホルムズ海峡の閉鎖」が囁(ささや)かれるたびに原油価格は上昇し、日本経済を揺さぶる構図は変わっていない。石油の備蓄は増えたが、現在の火力発電の5割を担う液化天然ガス(LNG)の備蓄は20日分だけだ。ガスの大量備蓄には時間とコストがかかるからだ。
堺屋太一氏の大ベストセラー「油断!」が世に出たのは75年。73年には初稿ができていたが、本当の石油危機が起きて出版は一時見送られた。当時の最新シミュレーションで描かれたこの本では「中東大戦」でホルムズ海峡が200日にわたって閉鎖されると、日本では3年9カ月の太平洋戦争と同じ規模の人的・物的被害が生じると警告している。
あの石油危機の教訓は今も生きているのか。もう一度みつめ直す時を迎えている。(産経新聞論説委員 井伊重之)