トヨタ自動車をはじめ自動車各社の2014年3月期連結決算は、おおむね好調だった。
とりわけ国内生産比率が79.9%の富士重工業と同76.7%のマツダは、ともに絶好調だった。
群馬県東部が拠点の富士重工業の売上高は、前期比25.9%増の2兆4081億円、本業のもうけを示す営業利益は2.7倍の3265億円、営業利益率は実に13.6%となり、前期の6.3%から大幅にアップした。グローバルな販売台数は13.9%増の82万5000台。
広島県に本社を置くマツダにしても売上高が2兆6922億円(同22.1%増)、営業利益は過去最高となる3.4倍の1821億円。営業利益率は2.4%から6.8%に改善した。販売台数は8%増の133万1000台。規模は大きくはないが国内生産中心で、地域のサプライヤーとの結びつきが強い両社の業績は、決して円安によってのみ導かれたわけではない。
富士重工業もマツダも、販売台数やシェアといった数量を追っていない。自動車を必要とする不特定多数を狙うのではなく、熱狂的なスバルファン、あるいはマツダファンだけに向けた商品戦略をとる。「マツダは10%の熱狂的なファンをつくることで、世界シェア2%をとれば生き残れる会社」(マツダ首脳)という。
数量ではなく価値を追求したブランド戦略に、両社はともに成功しているといえよう。スバルブランドを支えているのは水平対向エンジンであり、最近では運転支援システム「アイサイト」。マツダの場合は、低燃費エンジンやクリーンディーゼルなどの独自技術「スカイアクティブ」となるだろう。
もっとも、懸念材料もある。その一つは人手不足。20年の東京五輪、東北復興から、東日本を中心に人の確保が難しくなっていく。さらに、流通や外食チェーンは非正規社員を正社員とする動きを加速させている。30代半ばまでの若い世代の労働人口が減少に転じているだけに、やはり地域に根を張る流通や外食は人材確保に本腰を入れるのだ。業種や業界を超え、人の争奪戦が始まっていく様相である。
富士重工業は「自動車生産の群馬製作所ではここ数年、高卒の新卒を毎年200人、安定採用している。また、現在3000人いる期間工だが、3年間で150人を正社員にした。やりくりで人を確保していく」(同社首脳)。2013年度の国内生産は約65万台。かつて軽自動車を含め年40万台を4000人で生産していたが、いまは8000人が登録車のみ65万台生産し、「群馬製作所はフル操業の状態」(同)という。
大手自動車部品メーカーの幹部は「問題は規模の小さい2次、3次下請け。ブラジル人労働者を含めた人の確保が急がれる」と指摘する。
自動車は約2万点以上の部品からなる。中小・零細メーカーの人材確保の支援策が求められる一方、高い技能を有する魅力やモノづくりの面白さを、若者に対して今まで以上に伝えていくべきだ。国際競争力をもつ国内生産車のビジネスモデルは、ようやくできあがった。これを人手不足を理由に壊してはいけない。(経済ジャーナリスト 永井隆)