旭化成が24日、くい打ちデータ偽装の調査報告を終えた。他社による偽装も相次いで発覚し、問題の焦点は偽装が業界全体の慣行だったか否かに移りつつある。もっとも、旭化成の社会的責任が軽くなったわけではない。同社は来年4月に3カ年の次期中期経営計画をスタートさせるが、信頼回復に向けた道のりは険しい。
「(現行の中期計画で実現している)成長と収益性をさらに強化する」
旭化成の浅野敏雄社長は今年5月の経営説明会で、次期中期計画の基本的な考えをこう述べた。
計画では、石油化学や繊維、電子部品などのマテリアル▽建材を含む住宅▽医薬品や医療機器から成るヘルスケア-の3領域に、経営資源を集中するとした。今後、マテリアル領域の3事業会社を持ち株会社と統合し、相乗効果を得るほか、新事業の創出にも取り組む構えだ。
同社は中興の祖といわれる宮崎輝氏、日本商工会議所会頭も務めた山口信夫氏がともに長く会長を務め、独自の多角経営で成功を収めてきた。だが、カリスマ主導の経営は“院政”の弊害と背中合わせだ。
このため、5年前に山口氏の後を継いだ伊藤一郎会長は、経営体制の刷新を決意。昨年4月の浅野社長就任とほぼ同時期に自ら代表取締役を外れ、社長への権限集中を打ち出した。浅野社長は成長路線の維持と、信頼回復という、困難な経営のかじ取りが求められる。(井田通人)