事実、実証実験をしていた山梨県や長崎県の郵便局関係者からは「サービスを有料化したら利用者の多くが離れるのではないか」と否定的な声が上がっていた。
日本郵政の長門正貢社長も記者会見で「お年寄りから多額のお金をもらうわけにはいかないし、人手がもっと必要になる」と苦しい胸の内を吐露している。
そもそも国策の実現のために過疎地も含めて郵便局を全国に展開し、1枚52円の一律料金で全国津々浦々にはがきを届けているサービスでは郵便事業が赤字体質なのはやむを得ない側面がある。だから、米国ですら郵便は国営事業だ。日本郵便はいまなお、ユニバーサルサービス義務をはじめ、多くの公的役割を担っている。その一方で、上場企業の日本郵政の完全子会社として収益性も求められている。
買収した豪トールの帰趨(きすう)も含めて、日本郵便はもがき、迷走を続けている。経営陣の責任を問うことは簡単だが、問題の本質は郵政民営化の際の制度設計そのものにあることを忘れてはならない。